改訂新版 世界大百科事典 「中山間地域農業」の意味・わかりやすい解説
中山間地域農業 (ちゅうさんかんちいきのうぎょう)
中山間地域とは,平地の周辺部から山間部に至るまでの傾斜地や山林が多く,まとまった平坦部が少ない地域の総称である。その区域については,一般的な基準はないが,農林水産省の農林統計の基準によれば,中山間地域は国土の総面積の約7割を占め,また農業的には,耕地,農家戸数,農家人口,農業粗生産額の約4割のシェアを持ち,日本の農業・農村において少なくない地位を占めている。
このような地域の農業は,一般的には,(1)傾斜耕地が多い,(2)圃場規模が零細,(3)峡谷の場合は日照時間が短いなど,農業生産上のさまざまな条件が平場に比べて不利な状態にある。こうした中山間地域では,1960年代の高度経済成長期以来,人口流出と過疎化・高齢化,農業の担い手の脆弱化,農林地の荒廃化が多発し,現在では消滅する集落も生ずるなど,地域そのものの存続が困難になっている状況も生まれつつある。これに対して,従来から政府は,山村振興法(1965),過疎地域活性化特別措置法(1990。前身は過疎地域対策緊急措置法,1970),特定農山村法(特定農山村地域における農林業等の活性化のための基盤整備の促進に関する法律,1993)などの各種の地域振興法により,農業振興を含めたさまざまな政策的支援を行ってきているが,これら地域の再建のためには農業内での対応のみでなく,林業や観光業をはじめとする地域横断的な産業活性化や生活,文化,景観,環境までも包摂した総合的な取組みが求められている。
執筆者:編集部
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報