中性子の散乱(読み)チュウセイシノサンラン

化学辞典 第2版 「中性子の散乱」の解説

中性子の散乱
チュウセイシノサンラン
neutron scattering

中性子nの原子核Xによる弾性散乱を,一般の核反応様式で書くとX(n,n)Xである.入射エネルギー En が大きくなるとnはその一部を失い,核Xを特定の準位 X*励起するようになり,これをX(n,n′)X*のように書く.いろいろの核種Xに対して熱中性子領域から数十 MeV,さらにそれ以上に及ぶ広汎な En の領域を含め,中性子散乱は非常に膨大な研究分野をなし,多くの問題を包含している.水素や炭素のような軽い核の場合は,1回の散乱ごとにエネルギー-運動量の保存則により,かなりのエネルギーを失っていくので,原子炉制御における中性子減速が行われる.熱中性子エネルギー領域の中性子散乱は,一般にポテンシャル散乱が行われている.En~1 eV 以上となると核共鳴の現象が現れる.しかし,この領域の中性子共鳴の現象のなかで,散乱はあまり重要な部分とはならず,複合核がγ線を放出し中性子捕獲となってしまう.AX(n,γ)A+1X反応,またもっとも重い核では核分裂X(n,A)B反応のほうの断面積がはるかに大きい.これらの反応の断面積は,複合核の中性子幅Γ(n),γ線幅Γ(γ)あるいは分裂幅Γ(f)に比例するが,Γ(γ),Γ(f)がエネルギー En の変化に対してあまりかわらないのに反して,Γ(n)は


の依存性のため,En のこの領域では

Γ(n) ≪ Γ(γ)
であり,

En ≈ 0.1~1.0 MeV
ではじめて

Γ(n) ≈ Γ(γ)
となるからである.したがって,

En > 0.1~1.0 MeV
の領域からは中性子散乱が一番大きな部分となるとともに,非弾性散乱もXにおける励起可能な準位 X* の増加とともに大きくなってくる.同時にほかの(n,p)反応や(n,α)反応なども起こるようになり,原子核Xは一度中性子nと複合核Cをつくると,もはやふたたび入射のときと同じエネルギー状態,つまり弾性散乱のnを放出することがほとんどできなくなってしまう.このように,原子核Cがnに対してちょうど光に対する黒体のようになるわけである.この状態でも量子力学的には黒体の影散乱に相当する弾性散乱部もあり,Cから再放出される粒子は最初のnではないがいろいろな X* に対する非弾性散乱のn′も多くあり,中性子散乱が反応のもっとも大きな部分であることはかわりない.この状態にある

En5~10 MeV
の領域では,散乱がもっとも大きい部分であり,中性子断面積は

σ(n) ≅ 2π R2
となる.ただし,Rは原子核の半径である.

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

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