コトバンクはYahoo!辞書と技術提携しています。

中性子散乱

朝日新聞掲載「キーワード」の解説

中性子散乱

原子炉や加速器で作った中性子線を物質に照射すると、原子核に当たって進む方向が変わる。原子ごとにこの散乱の様子が違うため、物質をつくる原子の配置がわかる。X線や電子線でも構造はつかめるが、水素など軽くて電子が少ない原子の場所を特定できるのは、中性子だけだ。

(2007-02-20 朝日新聞 夕刊 科学1)

出典 朝日新聞掲載「キーワード」朝日新聞掲載「キーワード」について 情報

デジタル大辞泉の解説

ちゅうせいし‐さんらん【中性子散乱】

中性子が物質と衝突した際、相互作用によってその進行方向が変化する現象。特に運動エネルギーが低い熱中性子冷中性子が起こす中性子回折から、結晶構造の解析が可能となる。X線回折と異なり、水素などの軽元素磁性体の磁気構造などの解析に利用される。

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

中性子散乱
ちゅうせいしさんらん
neutron scattering

中性子が物質に衝突した際に相互作用を受けて、その進行方向が変化すること。波長が0.1ナノメートル前後の熱中性子がエネルギーを変化せずに弾性散乱され、X線と同様に結晶でブラッグ反射する現象については、とくに中性子回折とよぶことがある。散乱前後でエネルギーが変化する非弾性散乱も含めて中性子の物質による散乱を総称する場合は中性子散乱という。中性子は陽子とほぼ等しい質量をもつ電荷のない素粒子であり、磁気モーメントをもっている。中性子のもつ波長λ(ラムダ)とエネルギーEの間には、

という関係がある。ここではエネルギーを絶対温度に換算しており、250ケルビンの熱中性子は約0.2ナノメートルの波長をもつ。
 中性子散乱から得られる情報は、基本的にはX線散乱と同じく、物質内の原子の配列である。X線はおもに物質内部の電子によって散乱される、すなわち物質内の原子がもたらす電子分布の情報が得られる。それに対し、中性子散乱には、中性子と原子核との核力による核散乱と、中性子の磁気モーメントと原子の磁気モーメントとの磁気的相互作用による磁気散乱の2種類があり、それぞれ以下のような情報が得られる。
 中性子散乱における核散乱の場合、散乱波の振幅にあたる散乱長がX線散乱の場合と異なって原子番号に比例しない。したがって、たとえば原子番号(電子数)が小さい水素などの位置決定に有力な手段である。また散乱長が負となる原子核(たとえばマンガンMn、チタンTi)もあり、マンガンと鉄Feのように周期表上隣り合った原子でも散乱波の差が大きくなることから、それらの位置決定にも威力を発揮する。一方、磁気散乱は、物質内の磁気モーメントの大きさと方向および配列を決定するもっとも有力な手段で、磁性体の研究には欠かすことができない。
 中性子非弾性散乱は、熱中性子のエネルギーと同程度である物質内原子や磁気モーメントの運動や振動などの決定に有力である。中性子と物質内振動とのエネルギーの授受を観測することによって、隣り合う原子の位置相関とその運動の時間的変化を同時に測定できる。核散乱による中性子非弾性散乱では格子振動(フォノン)や原子の拡散運動などを、磁気散乱による中性子非弾性散乱では磁気モーメントの集団運動(マグノン)などを検出するのにもっとも適した手段である。
 中性子散乱実験は、原子炉を用いた施設(たとえば日本原子力研究開発機構の研究用原子炉JRR-3)や加速器による核破砕現象を用いた施設(たとえば大強度陽子加速器施設J-PARC(ジェーパーク)の物質・生命科学実験施設)から供給される中性子ビームを用いて行うことができる。[石川義和・岩佐和晃]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

中性子散乱の関連キーワードチャドウィック(Sir James Chadwick)ブロックハウスド・ジェンヌ反強磁性体散乱の法則スピン波シャル

今日のキーワード

偽計業務妨害罪

虚偽の風説を流布し,または偽計を用いて人の業務を妨害する罪 (刑法 233) 。流布とは,犯人自身が公然と文書,口頭で伝達するほか,口伝えに噂として流す行為も含む。偽計とは人を欺罔,誘惑し,あるいは人...

続きを読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android