熱中性子(読み)ネツチュウセイシ

デジタル大辞泉 「熱中性子」の意味・読み・例文・類語

ねつ‐ちゅうせいし【熱中性子】

媒質中で媒質の原子核衝突を繰り返して運動エネルギーを失い、周りの分子熱運動と平衡状態になった中性子。また、一般に、エネルギーの小さい中性子。核に吸収されて核反応を起こしやすい。

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精選版 日本国語大辞典 「熱中性子」の意味・読み・例文・類語

ねつ‐ちゅうせいし【熱中性子】

  1. 〘 名詞 〙 移動速度遅い中性子のこと。平均秒速二・二キロメートルで、原子核につかまりやすく核分裂や核反応を起こす確率が大きい。核分裂の際に発生した高速中性子黒鉛重水などの減速材を通して熱中性子に減速される。

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百科事典マイペディア 「熱中性子」の意味・わかりやすい解説

熱中性子【ねつちゅうせいし】

周囲の媒質と熱平衡状態にある中性子。その運動エネルギーは媒質分子の熱運動のエネルギーに等しく,絶対温度TKにおける平均エネルギーは(3/2)kT(kはボルツマン定数)で,常温では0.025電子ボルト程度である。一般にはエネルギーの小さい中性子をいい,0.4電子ボルト以下のものをさすこともある。原子炉核分裂連鎖反応を維持するものとして重要で,核分裂の際放出される高速中性子減速材により減速し熱中性子とする。またX線や電子線と同様に物質に衝突させ,回折現象から結晶構造を推定するのにも使う。
→関連項目原子炉ジルカロイ制御棒増殖炉

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「熱中性子」の意味・わかりやすい解説

熱中性子
ねつちゅうせいし
thermal neutron

エネルギーがおよそ4~100ミリ電子ボルト(絶対温度に換算して約50~1200ケルビン)の中性子の名称。この中性子は波長が0.4~0.09ナノメートルとなり、物質内での原子間距離と同程度なので、結晶構造や磁気構造をはじめとする原子の位置相関を決定するのに役だつ。また熱中性子のエネルギーが同程度である物質内原子の運動や振動状態などのエネルギーの決定にも有力な粒子である。熱中性子は、核分裂あるいは核破砕によって発生した速中性子(およそ106電子ボルト)を軽水素、重水素あるいは炭素など軽い原子核を含む物質中で減速させることにより得られる。したがって減速材の温度が300ケルビン近傍の原子炉中に熱中性子は多く存在している。また、加速された電子または陽子を重金属ターゲットに衝突させる加速器中性子源での核破砕により発生した速中性子を減速して熱中性子が得られる。熱中性子よりエネルギーの低い中性子を冷中性子、高い中性子を熱外中性子とよび、同じく物質科学などの研究に用いられている。

[石川義和・岩佐和晃]

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化学辞典 第2版 「熱中性子」の解説

熱中性子
ネツチュウセイシ
thermal neutron

中性子が物質のなか何回も散乱を繰り返すと,媒質の分子や原子のもっている熱運動エネルギーと平均的に等しくなる.そして,中性子の運動エネルギーは,その媒質の温度で決まるある平衡状態を示すようになる.この中性子を熱中性子という.熱的に平衡状態にある熱中性子は媒質が中性子を吸収しないならば,中性子の運動エネルギーは統計的にマクスウェル-ボルツマン分布則に従って分布し,25 ℃ のときの熱中性子の平均エネルギーは0.025 eV に等しく,その平均速度は2200 m s-1 となる.

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「熱中性子」の意味・わかりやすい解説

熱中性子
ねつちゅうせいし
thermal neutron

物質に入射した中性子は物質内の原子と何回も衝突して次第にエネルギーを失い,ついに原子の熱運動と平衡状態に達する。このような状態にある中性子を熱中性子という。速度はほぼマクスウェル=ボルツマン分布に従い,その平均値は常温で約 2200m/sec,運動エネルギーの平均値は約 0.025eV (電子ボルト) である。

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改訂新版 世界大百科事典 「熱中性子」の意味・わかりやすい解説

熱中性子 (ねつちゅうせいし)

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世界大百科事典(旧版)内の熱中性子の言及

【核分裂】より

…エネルギーを与える実用的な方法は中性子を吸収させることで,これによって能率よく核分裂が起こるのは,トリウム232 232Th,ウラン233 233U,ウラン235 235U,ウラン238 238U,プルトニウム239 239Puである。このうち,233U,235U,239Puは熱中性子(気体分子の熱運動エネルギー0.03eV程度のエネルギーをもつ遅い中性子)による分裂の確率はとくに大きく,238Uと232Thは速い中性子のみ有効である。
[連鎖反応]
 原子核が中性子を吸収して分裂し,その際放出される中性子によって次々と別の原子核が連鎖的に分裂を起こすことを(核分裂)連鎖反応chain reactionという。…

【原子炉】より

… 核分裂とは,重い原子核が質量のあまり違わない二つの原子核に分裂する現象である。熱中性子を吸収したときに核分裂する確率が大きい原子核を核分裂性核種と呼ぶ。原子炉ではウラン235 235U,ウラン233 233U,プルトニウム239 239Puなどの核分裂性核種が使用される。…

【中性子】より

素粒子【猪木 慶治】
[エネルギーによる分類]
 中性子はそのエネルギーが0.5MeV以上,1~500keV,1keV以下であるとき,それぞれ高速中性子,中速中性子,低速中性子とよばれることがある。またとくに媒質と熱平衡にある中性子集団を熱中性子という。常温ではその平均エネルギーは0.025eV程度である。…

【中性子回折】より

…中性子は波動性を示し,その波長は中性子のもつ運動エネルギーに逆比例する。原子炉内で減速された熱中性子の波長は1Å(10-8cm)程度になり,ちょうど結晶や分子を構成している原子の間隔と同程度になる。この程度の波長の波は電磁波ではX線に対応し,X線が原子の格子や分子の配列で回折現象を起こす(X線回折)ように,熱中性子を物質にあてると回折が起こる。…

【中性子吸収材】より

…吸収断面積は同一元素であっても中性子のエネルギーレベルによって異なる。軽水炉,重水炉などで核分裂反応を起こす熱中性子についてみれば,中性子吸収断面積は元素によって大差があり,断面積の大きなものと小さなものとでは7けた以上の差がある。熱中性子の吸収材としては断面積が数万バーンから100バーン程度の,ホウ素B,ハフニウムHf,カドミウムCd,ガドリニウムGd,ユーロピウムEu,タンタルTaなどが使用される。…

※「熱中性子」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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