放送局のスタジオ外の場所での各種行事、催し、あるいはできごとなどの模様をその場で取材し、直接放送することをいう。中継放送を行うには、少なくとも音や映像をとらえるマイクロホン、テレビカメラのほか、放送局まで取材した音や映像を届ける中継回線が必要となり、これらの必要機器を搭載したさまざまな中継車がそれぞれの用途によって分けられている。国会、劇場、野球場、競技場、大相撲などのように、映像や音を収める範囲があらかじめ想定できる場合は、それらの開催前に中継車を出し、カメラ、マイク、マイクロ波中継機器の配置、これらの機器の動作確認などを行ってから本番に臨むことができる。取材現場が放送局から離れている場合や、ビルや山などの陰になる場合には、マイクロ波中継器をいくつか使って多段中継する。突発的事故や災害など緊急を要する場合は、少人数で運用でき、狭い所へも進入可能な小型中継車が活躍する。これはハンディ・カメラをはじめ小型機器で構成される。また、航空機の墜落事故、自動車の崖(がけ)からの転落事故のような場合は、ヘリコプターから現場状況を撮影し、これを収録したり直接マイクロ波中継したりして放送局に伝送する。さらに、マラソンやボート競技のように被写体とともに移動する必要がある場合には、テレビカメラの上下振動を極力抑え、安定した映像を確保するように防振装置を取り付けた移動撮像車が用いられる。地上や空中だけでなく、海上や水中での取材もある。船からの中継では、船上に設置したアンテナをつねに地上にある基地局に向けるとともに、船の位置を知ることのできる装置なども開発されている。また、ダイバーが操作する密閉した容器に入れたカメラや、カメラだけ水中に沈めて遠隔制御する装置なども使用されている。国内ばかりでなく、外国で取材した番組を通信衛星経由で中継放送するものも多く、オリンピックやサッカー・ワールドカップなどのスポーツ番組、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団のニューイヤー・コンサートなどの音楽番組の中継放送はつねに人気が高い。国際中継も含めて、中継放送番組の割合は増加の傾向にある。現場から中継放送で放送局に送られた素材をテレビ放送として送出する場合、生中継放送と録画中継放送の2通りの方法がある。生中継放送は現場から放送局に送られてきた素材をリアルタイムで処理してそのまま放送するもので、実感と迫力に優れている。録画中継放送は現場から放送局に送られてきた素材をいったん録画し、時間をずらして放送するもので、再放送にも使われる。必要に応じて編集を加えることもある。生中継を見落とした視聴者や、深夜の生中継の視聴が苦手な視聴者に喜ばれる。
[木村 敏・金木利之・吉川昭吉郎]
一つのテレビ放送局もしくはラジオ放送局から他局に中継して放送すること,また放送局以外の場所から直接放送することをいう。前者は,全国中継,管内中継(ある地方の中心的放送局からその地方全体に放送すること)などと呼ばれるものであるが,現在はむしろ後者の意味で用いられ,事件報道,スポーツ会場,劇場などの現場からの中継を指す。スタジオと違って,制作の設備,条件は不十分でも,現場の臨場感や迫真力があり,リアリティに富んだ放送が可能である。とくに生中継は,同時進行で現場と視聴者を結び,テレビの同時性という特性を最もよく発揮できる。いったん録画・録音して適当な時間に放送する場合は中継録画・録音という。中継放送はまずラジオで発達したが,テレビの普及とともに本格化した。例えば,富士山頂やヘリコプターからの生中継が可能になり,また主要都市の固定カメラから天気や道路事情の定時定点観測も日常化している。さらに,通信衛星利用の国際的衛星中継により,外国の都市や南極基地も目のあたりにできるようになった。アポロ11号の月面着陸のように他の天体からの宇宙中継も行われている。このほか,通信衛星の国内利用により,離島など中継可能な地点はさらに増えている。中継放送は,人々が自身では体験できない広い世界をテレビ,ラジオを通して体験できるだけでなく,国会や地方議会の中継により民衆に政治参加の道を開くなど新しい生活環境を形成してきている。
執筆者:岡村 黎明
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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