改訂新版 世界大百科事典 「政治参加」の意味・わかりやすい解説
政治参加 (せいじさんか)
political participation
ある組織でその構成員が価値配分の決定に加わることを参加といい,とりわけその決定が成員にたいし権威的な拘束力をもち,公的な性質を有する場合を政治参加という。具体的には国,自治体などの政府の政策決定に関与することを指す。政治参加の要因は政策決定への参画と自発性にある。前者を欠くとき,すでに決まった政策への積極的服従を調達するだけの〈包摂〉となり,後者を欠くときは,権力もしくは対抗権力による〈動員〉となる。両者を通じて批判の自由と非参加の自由が確保されねばならない。全体主義における参加が擬似参加の域を出ないのは,この自由を欠くからである。
いかなる政治権力でも,社会秩序の安定化・体制維持のために民衆の動向をつねに顧慮しなければならないが,政治参加は民衆の意向を政治に反映させ,それにより成員と権力との一体感をつくりだし,秩序維持をはかる有力な方法である。恐怖心や神秘感を人々に与えることで体制維持をはかる専制政治にたいし,権力の源泉を人民に求める民主政治では,人々の政治参加はその原理に内在する固有のものである。政治参加は直接参加と間接参加,制度化された参加と非制度的参加の2種類の分類が可能である。今日最も一般的な参加の形態である選挙権の行使は制度化された間接参加であり,普通選挙の普及により代議制=間接民主制が確立している国では万人に保証されるようになった。また政党活動,選挙運動への参加も間接参加の一形態である。しかし,利益関係の多様化,それに十分に対応できない政党組織の肥大化・硬直化,代表と有権者の距離の拡大は,こうした間接参加の有効性への疑問をまねき,参加意欲の減退をもたらす。ここに各種の団体のおこなう圧力活動・大衆運動が,非制度的直接参加として現れてくる。陳情やデモ行進などがその例で,代表制と並行し,あるいは結合して,その個別利益の実現を図る。またそれが参加の回路として制度化されると各種の委員会,審議会などの機関になる。しかし,これらの方法は組織された大きな利益の実現に限定されがちで,未組織の小さな利益は等閑視されやすい。
1960年代後半に政治参加は先進民主主義国であらためて問題となるが,その背景には,代表制と利益政治とではまだなお吸収しきれない,より個別的・地域的な利益の自己主張があった。イギリスでは1969年,都市農村計画作成への市民参加の方法・手続についての詳細な提案を含む報告(スケフィントン報告)が出されている。日本でも公害など生活環境の悪化は,住民運動,市民運動を発生させ,そこから市民の政治参加が強く求められるようになり,いくつかの自治体では市民参加の制度がつくられている。かつて民衆の直接的政治参加はアナーキーへの傾斜を宿す攪乱(かくらん)的要因と考えられていたが,最近のこれらの実践では,当事者のもつ知識と経験の重要性が見直され,さらには政治参加の市民教育的効果が期待されている。
→市民参加
執筆者:寺尾 方孝
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報