改訂新版 世界大百科事典 「乳児栄養障害」の意味・わかりやすい解説
乳児栄養障害 (にゅうじえいようしょうがい)
Die Ernährungsstörungen des Säuglings[ドイツ]
乳児疾患の一つで,かつての小児科学で重要課題であった。乳児では,下痢や嘔吐が続くと,摂取された栄養分の体内蓄積が行われなくなり,体重増加がとまり,やせてくる。またミルクも飲まなくなって栄養の摂取量そのものも減り,ますます体重が減少し,栄養状態も悪化する。そして栄養代謝が障害されていろいろな症状があらわれる。19世紀の終りころまで乳児の下痢症は非常に多く,下痢を起こすとなかなか治らず,栄養状態も悪くなるので,ドイツの小児科医チェルニーAdalbert Czerny(1863-1941)は,乳児の下痢症と栄養不良とは互いに原因となり結果となるものとして,それを包括して乳児栄養障害という概念を発表した。以後おもにドイツ学派ではこの病名が用いられてきたが,アメリカ学派では乳児下痢症と栄養障害とは別々の概念でとらえる考え方が主流をなしている。また乳児栄養障害を急性栄養障害と慢性栄養障害とに分ける考え方もあるが,前者の乳児の急性栄養障害とは急性消化不良症あるいは急性乳児下痢症を指すものであり,慢性栄養障害とは乳児の栄養失調malnutritionを意味している。したがって最近では乳児栄養障害という病名を用いることは少なくなり,それぞれ乳児下痢症,栄養失調症という病名を用いる場合が多い。
執筆者:藪田 敬次郎
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報