肥満症とは肥満に起因ないし関連する健康障害(医学的異常)を合併する場合で、医学的に肥満を軽減する治療を必要とする病態をいい、疾患単位として取り扱う、と定義される。厚生労働省によって1996年(平成8)に成人病という名称が生活習慣病と改められ、その急増に肥満が大きく関与していることが注目される。肥満の判定には、成人では体重(キログラム)を身長(メートル)の2乗で除したbody mass index(BMI)が国際的標準指標として広く使用されている。欧米人でのBMI≧30という肥満の基準とは異なり、日本人成人ではBMI≧25から健康障害が増加する。成人では基準値の設定が可能であるが、成長期では正常値が年齢で大きく変動するので、BMI自体は小児期・思春期の基準には用い得ない。日本の医療現場では1990年度の文部省学校保健統計調査に基づく年齢別、性別、身長別標準体重から肥満度(現在体重-標準体重/標準体重×100%)を算出して肥満児の判定基準として用いている。幼児では肥満度15%以上、学童以降では20~30%が軽度、30~50%が中等度、50%以上が高度肥満と判定される。体格指数(カウプ指数=体重(キログラム)/身長(センチメートル)×104、ローレル指数=体重(キログラム)/身長(センチメートル)×107)の場合と異なり、肥満度は年齢に関係なく一定であり、実際に治療するときに便利である。肥満は体に脂肪が異常に蓄積した状態であり、体脂肪率の測定が行われる。以前から皮下脂肪厚を測定して推定する方法が使われており、上腕伸側と肩甲骨下部の脂肪厚を測定する。しかしこの方式では皮下脂肪のみから体脂肪率を推定するため、より病的意義が強い内臓脂肪を計算に入れてないという理論的な問題がある。また水中体重秤量法やアイソトープ法は日常診療には用いられない。二重X線法Dual Energy X-ray Absorptiometry(DEXA法)は理論的に優れた測定法である。また生体インピーダンス法(bio-electrical impedance method:BI法)は簡便で精度の点で優れており、体脂肪率測定法として小児にも適している。着衣のままで測定が可能で、測定に熟練を要しない利点がある。体脂肪率による肥満の判定は、男子25%、女子11歳未満30%、11歳以上35%である。腹部から上に脂肪が蓄積される上半身肥満と、腰部から下に蓄積される下半身肥満も問題視されており、前者は生活習慣病罹患の頻度が高い。上半身肥満と下半身肥満の区別はウエストとヒップの比(W/H)で表わされ、男子1.0以上、女子0.8以上を上半身肥満と判定する。また肥満の判定に成長曲線を利用する場合もある。身長および体重を年齢ごとに記録したものを成長曲線とよぶ。日本では、身長と体重を0歳から18歳までの平均値およびISD(標準偏差)、±2SDの計5本の線で表示されている。その成長曲線から体重の異常な増加や、やせを早期に見い出して対応が開始できる。
メタボリックシンドロームは内臓脂肪の過剰な蓄積(内臓脂肪型肥満)を中心の病態として、心筋梗塞や脳卒中に代表される動脈硬化性病変の高リスク群として注目されている。メタボリックシンドロームは予防医学上の疾患単位であり、リスクの高い人を早目にスクリーニングしておこうという概念である。内臓脂肪とは胃腸で吸収された栄養が肝臓に流れ込む道筋、すなわち門脈の環流域に分布する脂肪組織のことで、大網脂肪や腸間膜脂肪などの総称である。2005年の日本内科学会での診断ガイドラインでは、腹囲(臍(さい)周囲長)男性≧85センチメートル、女性≧90センチメートルに加えて
(1)血清脂質:中性脂肪≧150ミリグラム/デシリットルかつまたは低HDLコレステロール<40ミリグラム/デシリットル
(2)血圧の上昇:収縮期血圧≧130mmHgかつまたは拡張期血圧≧85mmHg
(3)空腹時血糖≧110ミリグラム/デシリットル
の3項目のうち2項目以上が該当する場合、としている。
内臓脂肪の面積は臍レベルのCT断層写真によって測定し、内臓脂肪面積(V)が成人では100平方センチメートルか、またはVと皮下脂肪面積(S)の比であるV/S比が0.4を越える場合を内臓脂肪蓄積型と定義されている。小児では身体のサイズが異なるので成人と比較することは困難であり、この診断基準は設定されていないが内臓脂肪面積の60平方センチメートル、腹囲80センチメートル、V/S比0.276が求められている。小児においても内臓脂肪型肥満はメタボリックシンドロームの引き金となり健康障害につながるため、診断と管理が重要である。小児のメタボリックシンドロームの診断基準として、2006年に暫定案が示された。
(1)腹囲:小学生75センチメートル以上、中学生80センチメートル以上もしくは腹囲センチメートル÷身長センチメートル=0.5以上
(2)血清脂質:中性脂肪120ミリグラム/デシリットル以上またはHDLコレステロール40ミリグラム/デシリットル未満
(3)血圧:収縮期血圧125mmHg以上または拡張期血圧70mmHg以上
(4)空腹時血糖100ミリグラム/デシリットル以上
とし、このなかで(1)があって(2)~(4)のうち2項目を有する場合をメタボリックシンドロームと診断する。小児の肥満症治療が必要となる医学的問題として、(1)高血圧(2)睡眠時無呼吸などの肺換気障害(3)2型糖尿病、耐糖能障害(4)腹囲増加または臍部CTで内臓脂肪蓄積、などがあげられる。
[井上義朗]
肥満の原因の95%くらいまでは過食であって、単純性肥満という。食欲を抑制するレプチンleptinの異常でもおこる。脳腫瘍(しゅよう)、脳外傷、クッシング症候群、甲状腺(こうじょうせん)機能低下症などの基礎疾患によるものは比較的少ない。いずれにしても、体の消費エネルギーを超えてエネルギー摂取が行われると体の脂肪量は増加する。肥満には各種の合併症がおこりやすく、これが寿命を短くさせている。内科的には高血圧、脂質異常症、糖尿病、痛風、胆石、脂肪肝、狭心症、心筋梗塞(こうそく)、肺換気不良などが代表的で、外科では手術時出血、麻酔操作の不良、変形性関節症、変形性脊椎(せきつい)症などが多い。そのほか、不妊症、月経不順、子宮体部癌(がん)、皮疹(ひしん)などがある。
肥満の治療の基本は、エネルギー摂取の制限である。まず食事療法が重要で、標準体重1キログラム当り25~30キロカロリーを与える。とくに糖質やアルコール類は控えめにすることがたいせつである。脂肪量は摂取エネルギーの25~30%でよく、植物油と動物性脂肪の比率はだいたい2対1くらいがよい。そのうえにペクチンやセルロースなどの繊維を増やすことが望まれている。食行動についての注意もたいせつで、ゆっくり食べること、食事の回数を減らさないこと、互いに牽制(けんせい)しあって減量するよう努力することも必要である。重症の場合には、腸バイパス術や胃手術などが行われる。できるだけ体を動かしてエネルギー消費を増すことも重要である。
[中村治雄]
『日本肥満学会編『小児の肥満症マニュアル』(2004・医歯薬出版)』▽『月刊「食生活」編集部編『やさしくわかる肥満&肥満症――栄養指導の実践に役立つ予防活動と治療』(2004・フットワーク出版)』▽『武城英明編『症例から学ぶ肥満症治療――専門医が教える25のチェックポイント』(2006・診断と治療社)』▽『日本肥満学会編『肥満症治療ガイドライン ダイジェスト版』(2007・協和企画)』
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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