知恵蔵 「乳房予防切除」の解説
乳房予防切除
乳がんのうち5~10%は遺伝性とみられており、これに関連するのがBRCA1、BRCA2という二つの遺伝子の変異であることが分かっている。血液検査でこの二つの遺伝子の変異が調べられるようになった1990年代後半からアメリカで乳房を予防的に切除する手術が始まった。BRCA1またはBRCA2の変異は卵巣がんの発症にも関与するため、予防切除を行う場合は乳房と併せて卵巣と卵管も取り除くことが多い。乳房を予防的に切除することで、乳がん発症率は10%以下に下がるとされ、2008年には遺伝性乳がんにおける予防治療の一つとしてNCCN(National Comprehensive Cancer Network:アメリカの21のがんセンターが集まった組織)のガイドラインにも収載された。
日本では06年からBRCA1、BRCA2の検査が受けられるようになったが、健康保険は適用されない。母や姉妹など近親者に卵巣がん、卵管がん、乳がんの患者がいること等が検査を受ける条件となっているほか、事前事後を通じたカウンセリングや定期検診の実施など、重い決断を迫られる患者のサポート態勢が整っていることも重要である。
なお、健康な臓器を予防切除する先行例として、家族性大腸腺腫症(FAP)がある。これは関与するAPC遺伝子に変異があるとほぼ100%大腸がんを発症することもあり、20歳になる前に発症前の大腸を全て摘出するのが現在、日本でも標準治療とされている。
(石川れい子 ライター / 2013年)
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報