乳管内乳頭腫(読み)にゅうかんないにゅうとうしゅ(その他表記)Intraductal papilloma

六訂版 家庭医学大全科 「乳管内乳頭腫」の解説

乳管内乳頭腫
にゅうかんないにゅうとうしゅ
Intraductal papilloma
(女性の病気と妊娠・出産)

どんな病気か

 乳管内に乳頭状の構造をもった良性疾患です。乳管内に、正常より腫瘍に似た腺細胞が増殖するものを“異型乳管上皮増殖症(いけいにゅうかんじょうひぞうしょくしょう)”といいますが、乳頭腫はこの病変より異型がさらに強く、高分化型の「非浸潤性乳管(ひしんじゅんせいにゅうかん)がん」との中間に位置するものと考えられています。実はこの3つの病変の区別は主観的なもので、非常に難しいのです。

原因は何か

 明らかな原因は不明です。乳頭腫はほとんどの症例ホルモン受容体が陽性なので、卵巣ホルモンが何らかの影響を与えているものと思われます。

 また、本疾患は高率に乳腺症に合併するので、年齢的な要因も関係している可能性があります。乳頭腫そのものががん化するとは考えられていませんが、将来乳がんを発症するリスクが高い病変として注意を要します。

症状の現れ方

 多くの例で乳頭分泌が自覚症状となります。分泌物は茶褐色ないし赤い血性のものであり、分泌量は下着に付着する程度から大量に乳汁様に出るものまでさまざまです。また、最近では乳がん検診の際に超音波腫瘤(しゅりゅう)として発見されることも多くなってきました。分泌物が乳腺内にたまると腫瘤として触れるものもあります。

検査と診断

 乳頭腫の診断は難しいものです。乳腺疾患の検査である乳房X線撮影や超音波検査では、乳頭腫に特徴的な所見はありません。一部の症例では、超音波検査で拡張した乳管や一見すると良性の腫瘤像が認められることがあります。

 乳頭分泌のある症例では分泌物の細胞診が有用ですが、必ずしも確実に診断できるわけではありません。

 腫瘤がある症例では針生検を行うことが可能ですが、最終的には患部を切除して病理検査をしなければならないこともあります。一部の施設では乳管内視鏡を使っていますが、まだ信頼できる段階に至っていません。

治療の方法

 乳管内乳頭腫であると診断されたら、経過観察が原則です。非浸潤性乳管がんとの区別が難しい疾患であること、将来乳がんを発症するリスクが高いことを考えると、定期的な乳がん検診が欠かせません。予防的な乳房切断は必要ありません。

病気に気づいたらどうする

 乳頭分泌で発症することが多いので、ただちに専門医の診察を受けます。とくに閉経期あるいは閉経後では症状のよく似た乳がんとの区別が重要です。診断には時間がかかることが多いですが、焦らず段階を踏んで検査を受けるべきです。

関連項目

 乳がん

馬場 紀行

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

家庭医学館 「乳管内乳頭腫」の解説

にゅうかんないにゅうとうしゅ【乳管内乳頭腫 Intraductal Papilloma】

[どんな病気か]
 乳頭近くの比較的太い乳管に発生することが多い病気ですが、末梢(まっしょう)乳管から発生することもあります。
 これは、乳管内の細胞が乳頭状に増殖している状態で、乳腺症(にゅうせんしょう)(「乳腺症」)の一部的症状です。
 乳管内乳頭腫は良性の腫瘍(しゅよう)ですが、乳がん(「乳がん」)との関連が深いことがわかっています。
[症状]
 おもな症状は乳頭からの異常分泌(ぶんぴつ)で、しこりを触れることは比較的少ないものです。
 分泌物の性状は、血性のことが50%、ねばりけの少ない漿液(しょうえき)性のことが50%で、水のように透明なこともあります。ふつう、分泌物が下着に付着することで気がつきます。
[検査と診断]
 乳管内乳頭腫は、外見からはわかりませんが、乳頭から出てくる異常分泌物の細胞診を行なうと、多数の細胞が群れをなして認められることから、その存在がわかります。
 確実に診断するには、乳管造影を行ないます。これは、分泌物が出ている乳管開口部から造影剤を注入し、レントゲン撮影を行なうものです。
 乳管内乳頭腫があると、造影欠損像、乳管の閉塞(へいそく)像、拡張像、狭窄(きょうさく)像、断裂像、走行異常などが写りますので、かなり小さいものでも発見することができます。
 また最近では、乳管内視鏡を使った診断も行なわれるようになってきています。
[治療]
 血性分泌(血液のまじった分泌物)がある場合は、乳管がんとの鑑別がたいせつです。
 鑑別のためには、分泌物が出ている乳管開口部から、インジゴカルミンなどの色素液を注入しておき、乳管乳頭腫のある乳腺葉(にゅうせんよう)を、色素を目印にして切除し、病理組織検査を行なって、良性か悪性かを調べます。
 つまり、治療と検査をかねて乳腺葉を切除するわけです。
 乳管内乳頭腫は、乳がんとの関連が深い病気ですから、乳頭の異常分泌に気づいたら、必ず乳腺専門の外科の医師の診察を受けておきましょう。
 また、再発も多いので、治療後も指示された検査はかかさず受けることが必要です。

出典 小学館家庭医学館について 情報

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