生体の一部から剝離(はくり)または生検採取した細胞を光学顕微鏡的に検査して病的変化を判定する臨床検査法。病的変化としては悪性腫瘍や諸種感染症などが問題になるが,とくに癌の診断に有力な細胞形態学的検査法である。細胞診には,自然剝脱した細胞を含む分泌物や排出物あるいは貯留液などが検査材料として用いられるが,癌の早期診断のためには,病巣を狙って内視鏡や穿刺(せんし)針により的確に細胞を採取する方法が行われる。これは,伝統的な剝離細胞診に対して内視鏡的細胞診,穿刺細胞診と呼ばれる。このような癌の診断学的細胞診のほかに,集団検診による癌検診があり,腟分泌物を用いる子宮癌検診や,喀痰を用いる肺癌検診は,その代表的なものである。癌の細胞診が学問的に体系づけられたのは,ギリシア生れのアメリカの学者パパニコローGeorge N.Papanicolaou(1883-1962)の研究に負うところが大きく,塗抹標本の標準的染色法としてパパニコロー染色法が用いられ,細胞診がパパニコロー検査とも呼ばれるのはこの理由による。
実際の顕微鏡的検査にあたり,塗抹標本中にばらまかれた多数の細胞のなかから病的異常細胞を選別し,悪性所見の有無を判別する検査過程を細胞診スクリーニング(サイトスクリーニング)といい,その主要な業務を行う検査技師を細胞検査士(サイトスクリーナー)と呼んでいる。細胞診の最終判定は細胞検査士と専門医(細胞診指導医)が細胞所見について討議して行われる。細胞検査士については,細胞診が悪性腫瘍の診断に直結する重要な検査法で,悪性細胞の見落しは許されないため,一定以上の学識・技能を問う資格認定試験が課せられている。日本臨床細胞学会の行う資格認定試験制度は1968年10月に始められ,97年までに5000人以上が資格登録されている。細胞診は深い知識と熟練した技能をもつ人による形態検査であるが,癌細胞の特徴的な悪性所見を客観的に,また迅速に解析する自動解析機器の研究的開発が内外においてなされ,アメリカ合衆国では実用化の段階にある。さらにコンピューター画像解析法の実用化が近い将来,遠隔テレ細胞診に発展することが期待されている。
→生検
執筆者:高橋 正宜
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組織の表面から細胞を剥離(はくり)採取して癌(がん)細胞の有無を調べる方法で、細胞診断学、剥離細胞学ともよばれる。消化器癌のほか、気管支、肺、膀胱(ぼうこう)、子宮の癌の有力な診断法の一つである。医学の領域に顕微鏡検査が診断法として行われたのは19世紀初頭といわれているが、細胞診として臨床診断法の一つに認められたのは20世紀に入ってからで、ギリシア生まれのアメリカの解剖学者パパニコローG. N. Papanicolauo(1883―1962)の功績である。彼は1925年に細胞診による妊娠診断法を発表し、また28年には「癌に特有な形態をもった細胞」と題する論文を発表し、癌の診断法として先鞭(せんべん)をつけた。その後十数年かけて腟(ちつ)塗抹による子宮癌の診断法をまとめた。その後、数多くの研究者の努力によって、各種の臓器からの細胞の採取法や固定法、染色法などの手技について改良が行われた。しかし、今日でもパパニコローが考案した染色法が標準法として用いられており、その方法の煩雑さは自動染色装置のくふうによって解決をみている。子宮癌や胃癌などの集団検診の場に細胞診を取り入れるためには、細胞診検査施設とともに多数の細胞を選別する人が必要となる。そこで、日本臨床細胞学会では細胞診指導医とともに細胞診検査士の制度をつくって対応している。
なお、細胞診による癌細胞の判定基準としては、正常細胞に比べると癌細胞では、(1)細胞質に比して核が大きいこと、(2)核が不規則で核膜が肥厚してみえること、(3)異常な核分裂像があってしばしば多核になっていること、などがあげられる。
[竹本忠良]
『水野潤二他著『現代産科婦人科学大系7D 細胞診』(1972・中山書店)』
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[診断]
子宮癌の診断方法は,問診,婦人科的内診,細胞診,コルポスコピーcolposcopy,組織診などからなっている。(1)細胞診cytodiagnosis 組織の表面からはがれ落ちた細胞,または組織の表面をこすりとって採取した細胞を染色して顕微鏡で観察する診断法を細胞診またはスメア・テストsmear testという。癌の診断への応用はギリシア生れのパパニコローG.N.Papanicolaou(1883‐1962)により1928年に確立され,各種の癌診断に欠かせぬものである。…
…スポンジを病変の表面にあてて何度もこすり,機械的に細胞をはがして診断に供する。したがって採取できるのは細胞のみで,組織は採取できない(それで細胞診cytodiagnosisとして生検とは別に扱うこともある)。病変の良性・悪性の鑑別に威力を発揮する。…
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[内視鏡を用いて行う検査]
内視鏡を用いてさまざまな検査が行われるようになった。(1)生検biopsy,細胞診cytodiagnosis 径2mm以下のきわめて小さいはさみまたはさじ状のもの(生検鉗子)を内視鏡内に設けたパイプを通して挿入し,目的の部位から組織や細胞を採取して顕微鏡的に検査する。胃腸や気管支の粘膜には皮膚におけるような痛覚はないので,痛みなく実施できる。…
…このような時期の癌を発見するためには,定期的な健康診断が必要である。年に1度ほどの胸部や胃のX線検査,直腸や腟の視診,触診,腟のスメアテストsmear test(細胞診)などは,癌の早期発見に非常に役立っている。女性の場合,乳房は自分で調べて,しこりを発見することができる。…
…その通知がきたら,良い機会であるから必ず受診するようにしたいものである。
[診断]
子宮癌の診断方法は,問診,婦人科的内診,細胞診,コルポスコピーcolposcopy,組織診などからなっている。(1)細胞診cytodiagnosis 組織の表面からはがれ落ちた細胞,または組織の表面をこすりとって採取した細胞を染色して顕微鏡で観察する診断法を細胞診またはスメア・テストsmear testという。…
…針生検では皮膚を通して,しかも勘と経験にたよって臓器に針をさすことになるので熟練を要するが,その得られる情報量はきわめて大きい。(2)擦過生検sponge biopsy 擦過細胞診ともいう。食道,胃などの管腔臓器の病変が対象となる。…
…〈百聞一見に如かず〉のたとえのように,直接目で見ることは最も有力な診断法である。さらに必要に応じて生検や細胞診を行って顕微鏡レベルでの診断ができること,放射線被曝(ひばく)がまったくないことから,胃腸疾患の診断に際しては,X線透視に代わって主役となってきた。したがって,どこの病院にも内視鏡室や内視鏡部が設けられるようになった。…
※「細胞診」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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