X線造影剤ともいう。X線検査に際し,臓器の内部あるいは周囲に〈X線吸収差の大きくなるような物質〉を与え,目的部位にコントラストをつけて診断を容易にする薬剤をいう。
X線検査は,X線の透過作用と人体を構成する組織の吸収差を利用して行われるが,周囲組織とのX線吸収差が少ない臓器等(食道,胃,胆囊,腎臓,血管など)は,X線像として識別しにくい。そのような場合,造影剤が用いられる。造影剤は,X線発見の翌年の1896年にはシュトラウスH.Straussが次硝酸ビスマス(塩基性硝酸ビスマス)などを用いて消化管造影を試み,1904年にはリーダーH.Riederによって胃X線検査の基礎が完成された。日本では昭和初期にトリウム(Th)系造影剤トロトラストが用いられたこともあるが,放射性物質であるため現在では用いられず,硫酸バリウム,ヨウ素,空気などが用いられている。
造影剤の条件としては,(1)周囲組織とのX線吸収差が大きいこと,(2)毒性がなく,副作用が少ないこと,(3)検査後,排出,吸収が迅速に行われること,(4)経口的に用いる場合は飲みやすいものであること,の4点が求められる。造影剤は,X線吸収の大きい陽性造影剤と,透過しやすい陰性造影剤に大別される。
X線が周囲組織よりも透過しにくい,原子番号の大きい物質で,硫酸バリウム剤,ヨード剤などがある。硫酸バリウムは,消化器系の検査に多く用いられる。主成分は白色結晶粉末の硫酸バリウムBaSO4で,これに粘稠剤,芳香剤などを加え,使用時には水を加えた混濁液とする。硫酸バリウム対水の割合は,造影剤100ml中の硫酸バリウムの重量g数(重量対容量百分率,W/V%)で表す。欠点としては,腸内で硬化して軽度の便秘を起こしやすい。ヨード剤(ヨード系造影剤)は,ヨウ素53Ⅰを主成分とし,水溶性,油性,錠剤などがある。心臓,血管系,尿路系,胆囊,胆管系,気管支,脊髄腔など多くの部位に使用される。投与された造影剤は,尿から体外に排出される。副作用として,ときに悪心,嘔吐,蕁麻疹(じんましん)などがみられることもある。
X線が周囲組織よりも透過しやすく,物理的にも密度の低い気体である空気,炭酸ガス,酸素などが使用される。気腹,後腹膜,縦隔,脳室等に用いられる。消化管,関節などでは,陽性造影剤と同時に使用し,二重のコントラストを得る目的にも使われる。
→X線検査
執筆者:蜂屋 順一+金場 敏憲
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[単純撮影法]
人体を構成する物質の種類,密度,厚さ等により,X線の吸収率は異なる。この性質を利用して人体内部の構造をX線フィルム上に濃度の差として表す方法であり,被検者に対する特別な処置,造影剤等を必要としない。通常のX線検査の大部分はこの単純撮影法であり,胸部,腹部,骨部と幅広く用いられている。…
…疾病の診断や臓器の機能検査に用いられる医薬品。X線造影剤,一般検査用試薬,血液検査用試薬,生化学的検査用試薬,免疫血清学的検査用試薬,細菌学的検査用剤,機能検査用試薬およびその他の診断薬に分類される。(1)X線造影剤 消化管の造影には硫酸バリウム製剤が用いられ,その他,血管,気管支,胆囊,子宮・卵管,泌尿器,脊髄,脳室などの造影には各種ヨード製剤が多く用いられている。…
※「造影剤」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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