デジタル大辞泉
「乳腺症」の意味・読み・例文・類語
にゅうせん‐しょう〔‐シヤウ〕【乳腺症】
乳腺にいくつかの境界のはっきりしない腫瘤ができる良性の病気。30~40歳の女性に多い。
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にゅうせん‐しょう‥シャウ【乳腺症】
- 〘 名詞 〙 三〇~五〇歳の婦人によく起こる、乳腺内にエンドウ大から指頭大の嚢胞(のうほう)ができる病気。炎症とも腫瘍ともまた進行性変化ともいわれるが一定していない。マストパチー。
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乳腺症
どんな病気でしょうか?
●おもな症状と経過
乳腺症(にゅうせんしょう)は月経周期の高温期、排卵(はいらん)から月経の時期に、乳房の片方、あるいは両方に1個から数個のしこりが触れたり、消えたりする病気です。これは、乳腺のすき間に水がたまったもの(のう胞(ほう))で、触ると弾力性に富んでいますが、硬い場合もあります。しこりの大きさや形はいろいろあり、周囲との境界がはっきりしないものもみられます。痛みを伴い、とくに、月経前には痛みが強くなり、月経が始まると軽くなります。また、乳頭(にゅうとう)から異常な分泌(ぶんぴつ)液(水様、乳汁様(にゅうじゅうよう)、黄褐色(おうかっしょく)、血性など)がでることもあります。
日常生活に支障をきたすほど痛みが強い場合以外は、とくに治療する必要はありません。
乳腺症から乳がんになることはありませんが、乳がんと似ている症状だったり、乳がんとの見分けが難しいこともあるため、気になる症状がみられたら検査を受けて、正確に診断してもらうことが必要です。
検査は触診、またはエコー(超音波)検査やマンモグラフィー(特殊なエックス線撮影)、で行います。乳がんが否定できない場合には、MRIによる精密検査や穿刺(せんし)吸引細胞診、針生検(はりせいけん)を行います。
●病気の原因や症状がおこってくるしくみ
女性ホルモンのバランスの崩れが原因と考えられていて、エストロゲンが過剰になると、乳腺組織が変化することがわかっています。
●病気の特徴
30歳~45歳に多くみられる病気です。外来で診察する乳腺の病気のなかで、乳腺症は一番多くみられます。
よく行われている治療とケアをEBMでチェック
[治療とケア]乳がんとの区別を確実に行う
[評価]☆☆☆
[評価のポイント] 乳房に関する訴えのある、40歳以上の受診者の4パーセントに乳がんがみられたという臨床研究があります。乳房になんらかの異常がある場合は、まず乳がんであるかないかを確かめることが重要です。(1)
[治療とケア]のう胞がある場合は、たまっている液を排出する
[評価]☆☆
[評価のポイント] のう胞から液を排出した場合としない場合で、治療後の経過を比較した臨床研究は見あたりませんが、専門家の意見や経験から支持されています。
[治療とケア]痛みが強い場合は、ホルモン療法薬を用いる
[評価]☆☆☆☆
[評価のポイント] ホルモン療法薬の乳房の痛みをやわらげる効果は、信頼性の高い臨床研究で確認されています。(2)(3)
[治療とケア]非常に痛みが強い場合は、鎮痛薬を用いる
[評価]☆☆
[評価のポイント] 乳腺症に対して鎮痛薬を使用した場合と、使用せず痛みをがまんした場合の経過を比較した臨床研究は見あたりませんが、痛みの強い場合にそれを抑えることは専門家の意見や経験から支持されています。
[治療とケア]カフェイン・脂肪の摂取を制限する、炭水化物を多く摂取する
[評価]☆☆
[評価のポイント] カフェインの制限に関しては、最近の研究では、効果がなかったとするものが優勢です。しかし、カフェイン制限は無害で医療費もかからないため、試してみてもよいでしょう。
脂肪制限と炭水化物を多く摂取することについては観察研究で効果があるとされているようです。(4)
[治療とケア]ヨードをとる
[評価]☆☆☆
[評価のポイント] 海藻などに含まれるヨードは甲状腺(こうじょうせん)への影響も少なく、有効であったという臨床研究があります。(5)
[治療とケア]毎月の自己検診、少なくとも年1回の乳がん検診を行う
[評価]☆☆☆☆
[評価のポイント] 自己検診についての信頼性の高い臨床研究はありませんが、乳腺症の診断を受けた人、あるいは疑いのある人が、乳がんの自己検診をすることでがんのリスクを回避できるという臨床研究があります。乳がん検診は、簡便で、費用もあまりかからない検査です。定期的に検査を受けることで早期発見が可能になります。アメリカでは50歳以上で、マンモグラフィーによる検診が推奨されています。(6)
よく使われている薬をEBMでチェック
ホルモン療法薬
[薬名]ボンゾール(ダナゾール)(2)(3)
[評価]☆☆☆☆
[評価のポイント] 女性ホルモンのバランスを是正するダナゾールの効果は信頼性の高い臨床研究で確認されています。
タモキシフェン(選択的エストロゲン受容体調節因子)も痛みを改善することがわかっていますが、子宮体がんや血栓塞栓症(けっせんそくせんしょう)を増加させることがあります。
乳汁分泌抑制薬
[薬名]パーロデル(ブロモクリプチンメシル酸塩)(7)
[評価]☆☆
[評価のポイント] 乳汁分泌がある場合には、分泌を抑制する薬を服用します。このことは信頼性の高い臨床研究で確認されていますが、副作用が多いため、推奨されません。
総合的に見て現在もっとも確かな治療法
日常生活で困ることがなければ、治療は不要
乳腺症と診断されても、日常生活に支障をきたすほど痛みが強くなければ、特別な治療はしないほうがよいでしょう。
あらゆる治療には、副作用や合併症が引きおこされる可能性がゼロではないからです。
乳房の痛みが強いときは、内服薬でやわらげる
乳房の痛みをやわらげるときには、まず、脳の下垂体(かすいたい)から放出するホルモンであるGnRHの分泌を抑制する効果があるボンゾール(ダナゾール)を用います。ダナゾールに関しては、信頼性の高い臨床研究でその効果が確認されています。
乳汁分泌がみられるときには、乳汁分泌抑制薬を
乳汁分泌があって困るときには、乳汁分泌抑制薬のパーロデル(ブロモクリプチンメシル酸塩)を用います。この薬は信頼性の高い臨床研究で効果が確認されていますが、副作用があり推奨されていません。
乳腺症と診断されたり、疑われたりした場合は、乳がん検診を
乳腺症から乳がんになることはほとんどありませんが、乳がんと似ている症状だったり、乳がんを合併していることもあったりするため、気になる症状がみられたら検査を受けることが必要です。
とくに、「初経から最初の妊娠までの期間や初経から閉経までの期間が長い女性」、「ホルモン補充療法を行っている女性」、「家族や親類に乳がん患者がいる女性」などは、乳腺症の診察とともに、乳がん検診を定期的に受けるよう勧められます。欧米では50歳以上の女性は、マンモグラフィーによる検診が乳がんの早期発見につながるため推奨されています。わが国では40歳以上の女性に対してマンモグラフィーによる検診が勧められています。
ヨード摂取は乳腺症治療に有効
海藻などに含まれるヨードは甲状腺への影響も少なく、乳腺症に対して有効であったという臨床研究があります。ヨードはのりやわかめ、昆布(こんぶ)、ひじきなどに多く含まれています。(1)BROOKE SALZMAN, MD, STEPHENIE FLEEGLE, MD, and AMBER S. TULLY, MD, Thomas Jefferson University Hospital, Philadelphia, Pennsylvania “Common Breast Problems” Am Fam Physician. 2012 Aug 15;86(4):343-349.
(2)Srivastava A, Mansel RE, Arvind N, Prasad K, Dhar A, Chabra A. Evidence-based management of mastalgia: a meta-analysis of randomised trials. Breast. 2007;16(5):503-512.
(3)O'Brien PM, Abukhalil IE. Randomized controlled trial of the management of premenstrual syndrome and premenstrual mastalgia using luteal phase-only danazol. Am J Obstet Gynecol. 1999;180(1 pt 1):18-23.
(4)Lubin F, Ron E, Wax Y, et al. A case-control study of caffeine and methylxanthines in benign breast disease. JAMA. 1985;253:2388-2392.
(5)Ghent WR, Eskin BA, Low DA, et al. Iodine replacement in fibrocystic disease of the breast. Can J Surg. 1993;36:453-460.
(6)Final Update Summary: Breast Cancer: Screening. U.S. Preventive Services Task Force. January 2016. http://www.uspreventiveservicestaskforce.org/Page/Document/UpdateSummaryFinal/breast-cancer-screening
(7)Parlati E, Polinari U, Salvi G, et al. Bromocriptine for treatment of benign breast disease. A double-blind clinical trial versus placebo. Acta Obstet Gynecol Scand. 1987;66:483-488.
出典 法研「EBM 正しい治療がわかる本」EBM 正しい治療がわかる本について 情報
乳腺症
にゅうせんしょう
Mastopathy
(女性の病気と妊娠・出産)
乳腺が長年にわたって、卵巣ホルモンの影響下に増殖と萎縮を繰り返している間に、乳腺内に増殖をしている部分と萎縮、線維化している部分が混在するようになり、大小さまざまの硬結を触れるようになったものです。生理的変化の一環とみなすことができ、本来は病気としては扱われません。
症状と月経とが密接に関連していることから、卵巣ホルモンの周期的な変化に乳腺が次第に同調できなくなることが原因と推定されていますが、明らかな原因は不明です。
30代後半から閉経期にかけて、乳腺の疼痛や腫瘤の触知、乳頭分泌など多様な症状を示します。乳がんとの区別が重要です。乳腺症の症状が最も著しいのは、月経直前です。症状が多様なだけに素人判断は危険です。
臨床症状、乳腺X線撮影、超音波検査で、明らかな乳腺腫瘍の所見がないことを確認します。腫瘤を触れる場合は細胞診や針生検を行うこともありますが、いずれも所見に乏しく組織を切除しないと診断がつけられないこともしばしばあります。
病理学的には増殖性所見として腺症、乳管内乳頭腫症(にゅうとうしゅしょう)などが認められます。時に乳がんと区別が困難なこともあります。萎縮性所見としては線維化、嚢胞、アポクリン化生などが認められます。
乳腺症は、治療の対象にはなりません。しかし、乳腺症は乳腺全体に及ぶ生理的変化のために、万一、乳がんが発生した場合に早期発見の妨げになります。
すなわち乳腺症の著しい乳房は、触診しても大小さまざまの腫瘤に触れるために、画像診断などを併用して乳がんを見落とさないように注意しなければなりません。
生検などによって増殖性所見が認められた場合は、乳がん発症のリスクが高くなります。
乳がんは、初発症状として乳房痛はほとんどありません。月経前に増悪し、月経開始後に改善する乳房痛は乳腺症によるものが多く、経過観察でかまいません。腫瘤、乳頭分泌など乳がんと共通する症状があれば、専門医の診察を受けて精密検査を行います。
しかし、乳腺症自体の診断は難しいので、経過を慎重に観察しなければならないことが多いようです。
乳管内乳頭腫、乳がん
馬場 紀行
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報
にゅうせんしょう【乳腺症 Mastopathy】
[どんな病気か]
乳腺の病気のなかでもっとも多い病気で、乳腺の病気の半分近くを占めています。
乳腺症は、中年女性によくみられる乳腺の良性疾患で、性ホルモンの不均衡(相対的なエストロゲン過剰)によりおこります。乳腺組織の増殖、萎縮(いしゅく)、化生(かせい)(ほかの細胞に変化すること)した状態が混在しています。
乳腺症は、診察・治療中に自然治癒(ちゆ)、あるいは退縮することがあります。
[症状]
よく発症する年齢は、35~45歳で、閉経後は急減します。十分に授乳を行なったかどうか、授乳期に乳腺炎(にゅうせんえん)(「急性うっ滞性乳腺炎」、「急性化膿性乳腺炎」、「慢性乳腺炎」、「思春期乳腺炎」)を患ったかどうかによって、また年齢によっても症状はまちまちです。
ふつう、片側または両側の乳房(にゅうぼう)に痛みがあり、乳房内に境界が不鮮明で不規則な、顆粒(かりゅう)状、結節(けっせつ)状、平皿状のしこりが触れ、押すと痛みが強くなります。しこりと痛みは、必ずしも持続するわけではなく、月経前後に強くなり、月経開始とともに軽くなるといった周期性をもつことがあります。
また、乳頭の異常分泌(ぶんぴつ)がみられたり、嚢胞(のうほう)をつくることがあります。嚢胞の場合は、境界のはっきりした球形ないし卵形のしこりとして触れます。
[検査と診断]
指でつまむとしこりがよく触れ、平手では触れにくいことから、乳腺症と診断できることが多いものです。しかし、マンモグラフィー(乳腺X線検査)や超音波検査を行なって、乳がん(「乳がん」)でないことを確かめることが必要です。
乳腺症は前がん状態ではないのですが、乳腺症があると乳がん発症の危険率を高めますし、発症年齢が重なっているので、乳がんとの鑑別を行なうことがたいせつです。
とくに、乳管内上皮増生(じょうひぞうせい)や乳管内乳頭腫(にゅうとうしゅ)(「乳管内乳頭腫」)という病変が、超音波検査などで見つかった場合は、試験的にしこりの一部を切除するか、穿刺細胞診(せんしさいぼうしん)(乳房のしこりに針を刺し、しこりの細胞を微量採取して病理学的に細胞を調べる検査)を行ない、がんでないことを確認します。
嚢胞の場合も、がんとの鑑別がたいせつで、超音波検査や穿刺吸引細胞診を行なって、がんでないことを確認します。
[治療]
乳腺症は良性の疾患ですから、とくに治療を必要としません。しかし、痛みの強い場合には、薬物による治療が行なわれ、男性ホルモン、あるいは抗エストロゲン剤などが使用されます。
出典 小学館家庭医学館について 情報
乳腺症(乳腺疾患)
定義・概念
乳房の腫瘤,硬結,疼痛または乳頭分泌などを主訴とする良性疾患で,組織学的には乳腺上皮の多彩な増殖性変化と退行性変化とが混在する.
分類
組織学的には非増殖型と増殖型に分けられる.前者では線維化(fibrosis),囊胞(cyst),乳管上皮のアポクリン化生(apocrine metaplasia),小葉萎縮,閉塞性腺症(blunt duct adenosis),小葉過形成(lobular hyperplasia),線維腺腫様過形成(fibroadenomatous hyperplasia)が認められ,後者ではさらに乳管上皮過形成(ductal hyperplasia),硬化性腺症(sclerosing adenosis),放射状瘢痕(radial scar),末梢性乳頭腫(peripheral papilloma),乳腺症型線維腺腫がさまざまな組み合わせで併存している.
原因・病因
エストロゲンとプロゲステロン,これら2つの女性ホルモンの不均衡が原因とされており,特にエストロゲンが相対的に過剰な状態が要因と考えられている.
疫学
一般的な好発年齢は35~50歳前後(閉経期)とされる.
臨床症状
境界不明瞭な腫瘤ないし硬結として触知し,しばしば両側の乳房にみられる.性周期と関連した乳房痛や乳頭からの分泌物を主訴とする場合もある.
診断
視触診,マンモグラフィ検査,乳房超音波検査などから悪性所見がないと判断された乳房腫瘤,硬結,疼痛などを乳腺症と診断することが多い.疾患というよりも症候群と考えられている.乳房超音波検査では,両側,びまん性に豹紋状陰影(図12-19-2C)を呈することが多い.乳癌との鑑別が必要な場合は,針生検,吸引式乳房組織生検,摘出生検などの適応となる.
鑑別診断
乳腺にみられる腫瘍性病変が鑑別診断の対象だが,特に乳癌との鑑別が重要である.硬化性腺症を含む乳腺症では,乳癌のなかでも硬癌と似た腫瘤像を呈することがある.
治療
乳腺症の主症状の多くは自然に軽快するため,経過観察が基本となる.乳房痛も性周期によって軽快することがほとんどだが,長期に継続し痛みが強い症例に対してはカフェインや脂肪の摂取制限,禁煙指導などが有効な場合もある.わが国では保険適応の内分泌療法として,ダナゾールの内服治療も選択できる.
予後
良性疾患であり良好である.病変は明瞭になったり不明瞭になったりと経時的に変化することも多い.乳腺症そのものは前癌病変ではないが,増殖型の場合は乳癌発生のリスクが高いとされている.[佐治重衡・戸井雅和]
■文献
京都大学大学院医学研究科外科学講座編:外科研修マニュアル,第2版,pp327-347,南江堂,東京,2009.
日本乳癌学会編:乳腺腫瘍学,pp11-68,金原出版,東京,2012.
日本乳癌学会編:乳癌取り扱い規約 臨床・病理 第17版,pp22-34,金原出版,東京,2012.
出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報
乳腺症
にゅうせんしょう
乳房中の小腺管が増生して嚢胞(のうほう)を形成し、全体として腫瘤(しゅりゅう)を形成するもので、マストパチーMastopathie(ドイツ語)ともよばれる。乳腺の疾患としては臨床上もっとも多くみられ、その一部は癌(がん)に移行することもあり、とくに癌との鑑別診断が重要とされている。原因としては卵巣を中心とする内分泌機能の不均衡や変調があげられており、乳腺症の腫瘤は真の腫瘍(しゅよう)ではなく、一種の腫瘍様病変とみられている。好発年齢は閉経期前後とされるが、30~40歳代に多く、両側あるいは一側の乳腺内に1個から数個の大小不同な腫瘤ができる。この腫瘤は乳癌と同様に乳房の乳頭を中心とした四分の一円のうち、上外方にみられることが多いが、両者は次のような点で異なる。すなわち、乳腺症の場合は自発痛ないしは軽い圧痛を伴うほか、腫瘤の境界が不鮮明で表面がほぼ平滑なため、両指間に挟むように触診すれば触れるが、平手で圧検したのではわからず、また月経前に症状が強くなるが、月経がくるか終了するころには軽減もしくは消失するほか、乳頭分泌を伴うこともあるが血性分泌は少ないなど、これらはいずれも乳癌との鑑別に役だつ。
乳腺症は、月経異常や不妊のほか、性生活の変化、妊娠中絶の経験者、出産回数の少ない者、授乳異常のあった者などに発生しやすく、治療はその程度によってさまざまである。軽症で月経後に消失する程度のものは経過を観察するだけで治療の必要はなく、乳腺痛の強い場合や硬結がびまん性のものには男性ホルモンなどのホルモン療法を数週間行う。このホルモン療法が無効な場合や乳癌との鑑別が困難な結節部分がある場合、また再発を繰り返す場合には局所手術を行い、組織学的検査を実施する。その結果、悪性化の疑われるものについては乳腺全切除あるいは単純乳房切断術が行われる。
[山本泰久]
出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例
乳腺症 (にゅうせんしょう)
mastopathy
マストパチーともいう。乳腺の良性のしこりで,乳癌との鑑別が難しい疾患である。卵巣機能に影響されて乳腺の上皮が異常増殖したものであるとの説が強い。30歳代から50歳代に多い。しこりは表面がぶつぶつしており,片側の乳房に複数あったり,両側の乳房に同時にあったりもする。痛みのあることもあり,乳首から血性または漿液性の分泌物がみられることもある。しこりの大きさは変わりやすく,月経の前には大きくなり,痛みも増すが,月経が終わると縮小し,ときには消えてしまう。大きなものは鶏卵大以上になり,中に囊胞を形成しているものもある。癌との鑑別はX線検査,超音波診断などによるが,たいへん難しく,最終的には切除して病理学的に診断する。乳腺症ならば治療はとくに必要ないが,疼痛が強い場合は乳房をブラジャーなどで外傷から守るとよい。乳癌になる割合は,そうでない人に比べて2倍以上高いといわれており,年に2~3回の経過観察が必要である。
執筆者:小野 美貴子
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
乳腺症【にゅうせんしょう】
マストパチーとも。30〜50歳の女性の乳腺の一部がかたくなる病気で,乳癌などの真性の腫瘍(しゅよう)でも乳腺炎でもないものの総称。原因としては性ホルモンの影響などが考えられ,月経時に乳腺痛を訴えるものもある。多くは放置してよいが,乳癌の初期とまぎらわしいことがあるので,専門医の診察が必要。
→関連項目前癌状態
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
乳腺症
にゅうせんしょう
mastopathy
マストパチーともいう。乳腺の一部が周囲に比べて硬度を増して硬結,腫瘤をつくる状態をいう。しこりの大きさはいろいろで,乳癌や線維腺腫のように限局せず,月経周期による消長があり,多発することもある。自覚症状としては,自発的な乳腺痛もあるが,圧迫痛のことが多い。乳腺の疾患のなかでは最も頻度が高く,30~50歳の女性に多い。内分泌の不均衡が原因と考えられている。以前は乳癌の前駆状態といわれたが,因果関係ははっきりしていない。癌との鑑別がむずかしいときは外科的切除が必要。
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