改訂新版 世界大百科事典 「亜ジチオン酸」の意味・わかりやすい解説
亜ジチオン酸 (あジチオンさん)
dithonous acid
化学式H2S2O4。ヒドロ亜硫酸または次亜硫酸(ハイポ亜硫酸)と呼ばれていたが,IUPAC命名法で亜ジチオン酸に改められた。亜二チオン酸ということもある。遊離酸は密閉器中で二酸化硫黄に鉄,亜鉛,ナトリウムアマルガムを作用させると得られるが,きわめて不安定で,チオ硫酸,二酸化硫黄,硫化水素に分解する。亜ジチオン酸塩には,アルカリ金属,アルカリ土類金属,亜鉛,カドミウムなどの塩が知られている。金属を有機溶媒,水に懸濁させるか,アマルガムとして二酸化硫黄を通じると得られる。
2Na+2SO2─→Na2S2O4
Zn+2SO2─→ZnS2O4
ほかに二酸化硫黄水溶液中で亜硫酸塩と亜鉛を反応させるか,亜硫酸塩を電解還元する方法もある。一般に無色の結晶で水によく溶け,アルカリ性水溶液中では強い還元作用を有する。亜ジチオン酸イオンS2O42⁻は図に示すような構造をもち,S-Sの結合距離は2.39Åであって,ふつうにポリ硫化物イオンにみられるS-S結合距離2.0~2.15Åよりずっと長い。これが,亜ジチオン酸イオンが強い還元力をもつ原因と考えられる。亜ジチオン酸ナトリウムNa2S2O4は俗にヒドロ亜硫酸ナトリウム,2水和物Na2S2O4・2H2Oはハイドロサルファイト,次亜硫酸ソーダ,次亜硫酸ナトリウムなどと呼ばれる。不安定で,湿った空気中では酸化して亜硫酸水素ナトリウムNaHSO3と硫酸水素ナトリウムNaHSO4に分解する。2水和物は単斜晶系の結晶で,52℃で分解する。触媒としてβ-アントラキノンスルホン酸を加えたものは,フィーザーの溶液Fieser's solutionと呼ばれ,酸素吸収剤として使用される。染料の合成,動物性繊維や食品の漂白剤としても用いられている。
執筆者:漆山 秋雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報