改訂新版 世界大百科事典 「交名注文」の意味・わかりやすい解説
交名注文 (きょうみょうちゅうもん)
日本の古文書の一様式。単に〈交名〉ともいう。人名を書き連ねた文書,人名リスト。〈注文〉の一種である。律令制的な文書様式としての歴名,歴名帳(位階や﨟次の順に人名が列記された)と相違して,人名の配列に一定した原則はなく,順位を示すことより,交名人の集団自体を指示・確定することに重点があった。交名注文は,単なる手控えとして伝存したのでない場合は,多く上申文書や書状に副進されたが,その受領者は,注記された人々に対して特定の指揮,命令,裁決等の権限行使を行うことができ,またはそれを期待された。交名注文は非常にさまざまな理由,必要によって作成されるので,その場合によって上記の権限の内容は多様であるが,例えば儀式,宿番,戦陣などへの参加者の交名の場合は,著到(ちやくとう)催促の権限が発生し,また非法・濫妨狼藉者の交名の場合には,その禁圧,裁判の権限行使が期待されることとなる。要するに,交名注文は,特定の人間関係,支配関係の下におかれた集団の範囲を示す点で,特徴的な文書様式であるが,この点を純粋に示すものとしては,荘園制的な寄人(よりうど)の交名注文や幕府の国御家人の交名注文があるといえよう。
執筆者:保立 道久
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報