日本大百科全書(ニッポニカ) の解説
人権デューディリジェンス
じんけんでゅーでぃりじぇんす
human rights due diligence
企業がビジネス上の人権侵害リスクについて調査し、予防・軽減策を講ずること。略称は人権DD(Due Diligence)。対象となる人権リスクは、自社だけでなく原材料の調達先や製品・サービスの販売先を含めた、児童労働、強制・危険労働、低賃金労働、人身取引、人種・性別・宗教などの違いによる差別、ハラスメントなどが該当する。人権デューディリジェンスでは、(1)取引先を含めた人権侵害リスクを調査・特定し、(2)社内での責任部門を明確化して軽減・予防策を講じ、(3)第三者をまじえた追跡調査で、絶えずビジネスを点検・改善し、(4)一連の取り組みについて情報開示することが必要とされる。
1990年代後半に、先進国の衣料品や食品などの多国籍企業が、途上国で児童労働や過重労働を強いていることが発覚し、欧米を中心に不買運動が広がった。また、2000年代に入ると、アフリカの鉱山や東南アジアのパーム農園などで違法な労働実態が判明した。このため企業は各国・地域の法令を守るだけでなく、国際的な人権基準を遵守すべきだとの機運が高まり、2011年に国連が採択した「ビジネスと人権に関する指導原則」で企業に人権尊重の責任があることが明文化された。これを受け、2015年にイギリスが罰則つきの「現代奴隷法」を制定するなど、欧米中心に人権デューディリジェンスの法制化が進んだ。企業も、ESG投資資金を呼び込む観点から、途上国などで人権デューディリジェンスに積極的に取り組むようになった。しかし、日本の対応は遅れており、日本政府は2020年(令和2)に、「ビジネスと人権に関する行動計画」を策定し、2021年に日本経済団体連合会(経団連)も「企業行動憲章 実行の手引き(第8版)」で人権デューディリジェンスの適切な実施を求めたが、欧米のように義務化したり、罰則規定を盛り込んだりはしていない。最近では、少数民族への人権侵害が問題視された中国・新疆(しんきょう)ウイグル自治区産品の輸入をアメリカが禁止したほか、日本での外国人技能実習制度が人権侵害の疑いがあるとして国連やアメリから批判されている。
[矢野 武 2023年1月19日]