特定の商品ないし業者を対象として不買を呼びかける運動。ボイコットboycottともいう。この運動は近代労働運動の一戦術として古い歴史をもつが,しかしそのようなものとしてはさほど重要な役割を果たしたとはいえない。それは特定の産業や業者とかかわりをもつ労働者と,それらからの商品購入者とは,特殊な例外を除いてまったく範囲を異にするからである。しかし消費者運動の発展過程で不買運動はしばしば用いられる戦術となり,注目すべき成果をおさめた例も少なくない。近年では,アメリカで1973年に,肉の値上がりに抗議する肉不買運動が大きく広がったため,ニクソン大統領が肉の価格凍結を打ち出すに至り,この成功を基礎として全国消費者会議という新しい全米的な消費者組織の結成をみている。この例のように,とくにアメリカの消費者運動では不買運動が重要な役割を果たしている。
日本でも消費者運動としての不買運動はこれまで何回か行われ,とくに1970年から翌年にかけてのカラーテレビ不買運動は重要な結果を生んだ。この運動は,当時普及期にあったカラーテレビ受像機について,以前から国内と輸出の二重価格が問題とされ,また家電業界が独占禁止法違反容疑で公正取引委員会の摘発を受けていたことなどを背景とし,直接にはメーカーの定める〈定価〉が実売価格を大きく上回っていたことに抗議して,70年9月,全国地域婦人団体連絡協議会(地婦連)がカラーテレビの1年間買控えを呼びかけたのに始まる。一方ですでに同年春,人工甘味料チクロの完全追放を要求して地婦連,主婦連合会,日本生活協同組合連合会などからなる〈消費者5団体〉がチクロ入り食品の不買運動を行い,ある程度の成果をあげていたこと,他方では家電業界の対応が拙劣であったこと,などの事情も加わって,地婦連の呼びかけはただちに〈消費者5団体〉による活発な不買運動に発展し,これはヤミ再販の摘発を受けていた松下電器産業に対する抗議をも加味しつつ,翌年4月まで継続された。この間,おりからの不況の中で現実にカラーテレビの売上げなどに相当の影響が現れたため,家電メーカー12社が相次いで従来の同様製品よりおよそ20%も低く実売価格に近い〈定価〉を付したカラーテレビの新機種の発売を決め,また松下電器が独占禁止法違反のヤミ再販の事実を認めて公正取引委員会の審決案に服することにもなった。このように,強力な家電業界に対して目的をほぼ達成したこの不買運動は,日本の消費者運動にとって画期的なできごとであり,さらにそのあとに再販制度の改廃を目的とする再販商品不買運動や,松下電器に対する消費者の損害賠償請求訴訟を呼び起こした。しかしその後は,石油危機のため消費者運動が低調となったことから,大規模な不買運動は行われていない。
なお,不買運動の一種ともみられるものに不払い運動がある。日本ではこれまで,新聞代,電気料金,視聴料などの値上げが行われた際,これに抗議して値上げ分の支払い拒否を呼びかける運動が行われており,諸外国にも同様の例は見られるが,まだそれほどの成果はあげていない。またこれと似たものに税の全部または一部の不払い運動があるが,これは明らかに不買運動とは異なる性質のものである。
→ボイコット
執筆者:久世 了
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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