仙伝抄(読み)せんでんしょう

改訂新版 世界大百科事典 「仙伝抄」の意味・わかりやすい解説

仙伝抄 (せんでんしょう)

初期のいけばな伝書。《仙伝書》ともいう。原本は伝わらず,成立年代,編者ともに明らかでない。慶長・元和年間(1596-1624)から,何種類かの古活字本が,1冊本として刊行され,1643年(寛永20)には整版本も出て,広く流布するようになった。その奥書によれば,三条家の秘本を1445年(文安2)に富阿弥から始めて,7人の受伝者を経て,1536年(天文5)に池坊専慈専応)が相伝したことになっている。このおよそ90年の間に,だれかが多くの秘伝条文をまとめたのではないかとみられる。内容は大きく三つに分けられ,〈本文〉と〈谷川流〉,そして〈奥輝(おくてる)之別紙〉となっている。〈本文〉には,池坊系の秘伝書のなかの同じ条文の記述が多く,谷川流は山科言国(やましなときくに)の雑掌であった大沢久守とつながりのあった谷川入道の流派ではないかといわれるが,はっきりしない。〈奥輝之別紙〉は三具足(みつぐそく)の花や公方様御成りの花があるように,《義政公御成式目》の異本であろうといわれる。編者,成立から書名にいたるまで,不詳の部分が多く,史料的価値について疑問をはさむ見解もある。書名を初めて《仙伝書》として刊行したのは,1643年の西村又右衛門版である。それ以来,どのくらい版を重ねたかが明らかでないが,初期いけばなの伝書として,その名は広く伝えられてきた。江戸時代から現在まで,いけばな界に与えた影響力は大きい。
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「仙伝抄」の意味・わかりやすい解説

仙伝抄
せんでんしょう

初期いけ花の伝書。原本は伝えられず、成立年代、編者とも明らかでない。刊本、1冊。奥書によれば、三条家の秘本を1445年(文安2)に富阿弥(ふあみ)から始めて7人の受伝者を経て1536年(天文5)に池坊(いけのぼう)専慈(専応)が相伝したことになっている。内容は本文と谷川流と奥輝之別紙(おくてるのべっし)の三部からなり、本文は池坊系の秘伝、谷川流は公卿(くぎょう)系のいけ花、奥輝之別紙は将軍家座敷飾りを伝えるものとされている。初期いけ花の伝書としてその名は広く伝えられ、史料的に疑問を挟む見解もあるが、古典的価置も評価され、江戸時代から現在に至るまでいけ花界に与えている影響は大きい。

[北條明直]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

世界大百科事典(旧版)内の仙伝抄の言及

【いけばな】より

…《蔭涼軒日録》に見るように,立阿弥や台阿弥といった人々,また《碧山日録》に記される連歌師としても著名な池坊専慶,《言国卿(ときくにきよう)記》における山科家の雑掌,大沢久守などは,依頼を受けて花を立てた専門家の代表であるとみてよい。室町期の立花の様相を伝える《仙伝抄》に谷川流と記載のあるのは,公家邸において花を立てた谷川入道某の伝であろうし,これらの人々の活躍によって草創期のいけばなは,立花という法式を備えたいけばなを出現させる。このような立花成立への試行期には,立花よりもより自由な景観描写的ないけばなも存在していたようで,現在最も古い花書ではないかと考えられる《花王以来の花伝書》には,〈岸くづれの花〉や室外の縁に置いたいけばなが見られ,前栽との関連が注目される。…

※「仙伝抄」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

今日のキーワード

青天の霹靂

《陸游「九月四日鶏未鳴起作」から。晴れ渡った空に突然起こる雷の意》急に起きる変動・大事件。また、突然うけた衝撃。[補説]「晴天の霹靂」と書くのは誤り。[類語]突発的・発作的・反射的・突然・ひょっこり・...

青天の霹靂の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android