雑掌(読み)ザッショウ

デジタル大辞泉 「雑掌」の意味・読み・例文・類語

ざっ‐しょう〔‐シヤウ〕【雑掌】

奈良・平安時代四度の使つかいに随行した諸国の官人。
平安時代以降、国衙こくが公文書を扱った役人の職名。
中世、本所・領家のもとで荘園に関する訴訟や年貢公事くじの徴収などの任にあたった荘官。
雑掌奉行ざっしょうぶぎょう」の略。
明治5~19年(1872~86)宮内省に設けられ、宮中の雑事をつかさどった判任官
人をもてなすための酒や食物。また、引出物や贈り物。
「二日の日の―には、さかなの数を集め」〈伽・浜出草紙〉

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精選版 日本国語大辞典 「雑掌」の意味・読み・例文・類語

ざっ‐しょう‥シャウ【雑掌】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 奈良・平安時代、朝集使など四度使(よどのつかい・しどし)の随員として上京してきた諸国の官人。臨時の職名で公文書の取扱いをつかさどった。後、四度使の職務をも代行するようになった。四度使雑掌(しどしざっしょう)
    1. [初出の実例]「雑掌粮伍拾参束弐把陸分」(出典:正倉院文書‐天平六年(734)一二月二四日・尾張国正税帳)
  3. 平安時代以降、国衙の在庁官人の職名。公文書の取扱い、中央への貢納物(封戸調庸官物雑物)の運送などにたずさわる。後、国司遙任制が一般化するに従って、通常、在京して国の文書事務に従事する者もあらわれた(在京雑掌)。これらは中央の下級官人が本官のほかに兼務していることが多く、実名を名のらず、秦成安、調成安のような仮名(けみょう)を名のることが多かった。国雑掌(くにざっしょう)
    1. [初出の実例]「郡司綱領受諸司諸家返抄収文授雑掌、雑掌為返抄寮官共勘会抄帳」(出典:類聚三代格‐八・承和一〇年(843)三月一五日)
  4. 中世、荘園の本所などにあった職名。荘園に関する訴訟が提起された場合、本所を代表し訴訟代理人として訴状・陳状を書き進め、法廷に出頭して弁論する。なお在京して訴訟を担当する雑掌を特に沙汰雑掌と呼び、荘園にあって租税徴収などの荘務に当る者を所務雑掌(預所など)と称することもあった。
    1. [初出の実例]「勘申。伊賀国司訴申東大寺黒田庄雑掌参箇条理非事」(出典:東大寺文書‐大治四年(1129)一二月三日・明法家勘文)
    2. 「本所の雑掌を、六波羅の沙汰として、荘家にしすへん為に」(出典:太平記(14C後)一)
  5. 中世、寺社などの修理造営に際して臨時に定められた担当者。また、室町時代、諸大名家へ将軍が臨むときなどの行事に際しても臨時に定められた。雑掌奉行
    1. [初出の実例]「所十八人雑掌也」(出典:吾妻鏡‐建保二年(1214)五月七日)
  6. 貴族、武家に仕えて雑務に奉仕した者。
    1. [初出の実例]「謀叛之輩〈略〉其外京都雑掌・国々代官所従等事者、雖御沙汰委尋明、随注申、追可御計之由」(出典:新編追加‐宝治元年(1247)六月二二日)
  7. 明治五年(一八七二)四月五日、宮内省におかれた職員で、宮中の雑務をつかさどった判任官。同一九年二月四日廃止。
  8. ざっしょう(雑餉)

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改訂新版 世界大百科事典 「雑掌」の意味・わかりやすい解説

雑掌 (ざっしょう)

奈良時代,四度使雑掌(よどのつかいざつしよう)といわれ,四度使に随行,四度公文(諸国から中央に提出した大計帳,正税帳,朝集帳,調庸帳をいう)等の公文書を太政官に進めるべく上京し,四度使とともに民部省における公文勘会(くもんかんえ)(地方官の行政の実態と公文書との照合)に加わった諸国の官人。ほぼ書生クラスの人が当たった臨時の職で,3~6ヵ月間在京して事務をとった。734年(天平6)の〈尾張国正税帳〉を初見とするが,755年(天平勝宝7)相模国の調邸を国司が売却したとき,その文書を扱ったのも調雑掌で,四度公文以外の文書も扱い,京に置かれた諸国の出先施設にも関係している。

 平安時代に入ると,雑掌は四度使の職掌を代行し,在京して四度公文を扱うだけでなく,調庸,交易雑物,封戸物等に関係する文書を扱い,主計寮の官人とともに返抄(へんしよう)の勘会に当たるようになる。10世紀には〈在京雑掌〉といわれ,諸国の京都における出先機関の性格をいっそう強めた。これが国(くに)雑掌で,その国の〈形勢〉や〈土風〉に通ずるとともに,京にいて,国よりの貢進物に関する公文を扱ったが,やがて1005年(寛弘2)の山城国雑掌の秦成安を初見として,13世紀前半にいたるまで甲斐の三枝(さえぐさ),近江の安(野州),加賀の江沼,讃岐の綾などのように諸国の有力な土豪の姓を持ち,共通して〈成安(しようあん)〉を仮名(けみよう)とする諸国の雑掌が活動するようになる。このころすでに国守による諸国の貢進物の請負体制が形成されていたが,国雑掌は京都でその国の封戸物,諸司への納物等に関する文書を扱っただけでなく,その徴収・弁進・所済の責任を負い,封戸主・諸司などと国との間で紛争がおこった場合には,国の利害を主張する訴訟の当事者となったのである。ただ大宰府管下諸国の国雑掌は大宰府に在留するものもあったと思われ,大宰府はしばしば国雑掌に指令を下している。また国雑掌が国守の交替とともに代わった事例があり,実名を名のる少数の例の一つに1172年(承安2)の土佐国雑掌右官掌紀頼兼がみられる点から,下級官人が国雑掌を兼ね,姓のみをその国の土豪に仮託した場合が多かったとみられる。〈成安〉の仮名が消えるころにはそれが一般化し,知行国制が確立する13世紀以後は国主の下級の家司(けいし)が国雑掌として,年貢等の徴収,訴訟の当事者となった。

 これと並行して,1129年(大治4)の伊賀国黒田荘雑掌や1181年(養和1)の肥後国鹿子木荘雑掌成安のような荘雑掌が現れるが,これは荘園について国雑掌と同様の役割を果たしたもので,13世紀以降,貴族,寺社の荘園の雑掌が広く見いだされる。荘の雑掌は預所(あずかりどころ)が兼ねる場合が多く,年貢・公事の収納に当たるとともに,京や鎌倉での訴訟の当事者として活動した。荘園をめぐる訴訟の増加とともにこの機能は分化し,前者を所務雑掌,後者を沙汰雑掌ということもあり,もっぱら鎌倉にあって訴訟に当たる関東雑掌も現れた。南北朝期以降の東寺では,すべての荘に関する幕府での訴訟を行う雑掌も見られるようになる。またこれとは別に,寺院の造営に当たってその担当者として雑掌を置く場合もあった。

 国雑掌は1353年(正平8・文和2)にも尾張国雑掌が見られるが,室町期に入ると《満済准后日記》に記す〈勢州守護雑掌大沢入道〉(永享2年(1430)閏11月22日条)や〈大内雑掌安富掃部丞〉(永享4年1月14日条)のように,在国する諸国守護の京都における出先機関の役割を果たした人を見いだすことができる。雑掌はこのように京・鎌倉のような政治中心地における各地域の国・荘や大名の出先機関で,江戸時代,各藩が江戸に常置した大名留守居にまでつながるものといえよう。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「雑掌」の意味・わかりやすい解説

雑掌
ざっしょう

古代・中世に国衙(こくが)・荘園(しょうえん)、貴族などに属して雑事務をとった役人。元来、四度使(よどのつかい)(律令(りつりょう)時代に毎年、国司が政治の成績を中央政府に上申するために派遣した4種の使)の従者で、貢調使(こうちょうし)雑掌・朝集使(ちょうしゅうし)雑掌などと称したが、平安時代に入って四度使の制度が崩れ、国衙の雑事務をとるものを某国雑掌と称するようになった。またこれに倣って荘園領主である本所(ほんじょ)・領家(りょうけ)はその荘園の管理にあたるものを荘園雑掌といった。鎌倉時代以降、在地して年貢・公事(くじ)の徴収にあたるものが所務雑掌、在京して荘園の訴訟事務を行うものを沙汰(さた)雑掌といった。彼らは荘園において一定の雑掌給という得分(とくぶん)を得、本所・領家側の利害を代表した。江戸時代には公家(くげ)の家司(けいし)を雑掌といい、維新政府の成立後、1872年(明治5)から86年まで宮内省に置かれた職掌に雑掌があり、宮中の雑務をとった。

[奥野中彦]

『赤松俊秀著『古代中世社会経済史研究』(1973・平楽寺書店)』『泉谷康夫著『律令制度崩壊過程の研究』(1973・鳴鳳社)』

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百科事典マイペディア 「雑掌」の意味・わかりやすい解説

雑掌【ざっしょう】

平安時代,在京して諸官衙(かんが)や諸家の雑務をつかさどる諸国の役人(国雑掌)。中世には,荘園領主に任命されて荘園の雑務を行う荘官が主で(荘雑掌),国雑掌と同様の役割を果たした。荘園の管理をつかさどるものを所務雑掌,荘園をめぐる訴訟事務に当たるものを沙汰(さた)雑掌といった。多くの場合,預所(あずかりどころ)がこの職務に当たるので,同一視されることもあった。
→関連項目大国荘国富荘和佐荘

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「雑掌」の意味・わかりやすい解説

雑掌
ざっしょう

もとは令制の諸官庁の雑務を行う者をいったが,荘園制のもとでは,領主 (→本所 ) の代官の呼称となった。雑掌には,年貢の徴収やこれに関連する一切の事務を行う所務雑掌,領主の訴訟事務を代行する沙汰雑掌,所務雑掌および沙汰雑掌の権限をあわせもつ平雑掌との3種があった。このうち所務雑掌は預所 (あずかりしょ) と呼ぶのが一般で,ただ雑掌といえば,多くは沙汰雑掌かあるいは平雑掌を意味した。また当時国衙領などにつき諸国が提訴する場合,国衙にも雑掌がいて訴訟事務を担当した。

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「雑掌」の解説

雑掌
ざっしょう

雑務担当の下級役職名。奈良時代に諸国の書生(しょしょう)などの在地出身の下級役人が,四度使(よどのつかい)に随行して京での勘会(かんかい)などに加わった職として知られ,平安時代には諸国の貢進物とその事務手続を扱う国雑掌の存在がみられる。一方,平安末期からは荘園制の展開にともない荘雑掌が知られ,年貢や公事(くじ)の収納(所務雑掌)や訴訟手続(沙汰雑掌)を行った。のちには守護大名の出先の事務取扱者をはじめ,武家や公家の雑務を行う職名としても広くみられる。

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世界大百科事典(旧版)内の雑掌の言及

【地頭代】より

…具体的には年貢の管理をはじめ地頭の権利・義務を代行し,領家との間に紛争が生じた場合には,地頭の訴訟代理人となって,訴状や答弁書をしたため訴訟の場に立つこともあった。ただし領家では《沙汰未練書》にあるごとく,所務の代官は預所(あずかりどころ)で,沙汰の代官は雑掌(ざつしよう)であったことからすれば,訴訟にあたった地頭代が,つねに地頭に代わって所務を執行した地頭代と同一人であったとはかぎらない。また,多く一族・郎等がこれに任ぜられたとはいえ,山僧,商人を任じた場合もあった。…

※「雑掌」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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