偽性腸閉塞

内科学 第10版 「偽性腸閉塞」の解説

偽性腸閉塞(腸疾患)

定義・概念
 腸管の蠕動運動が障害されることにより,機械的な閉塞機転がないにもかかわらず腹部膨満腹痛嘔吐などの腸閉塞症状を引き起こす疾患.
分類
 大腸のみ罹患する急性型と,小腸を主とした全消化管が罹患する慢性型に分類される.
1)急性大腸偽性腸閉塞症(Ogilvie症候群):
機械的閉塞機転がなく大腸が急速に拡張する疾患で,種々の全身疾患,特に術後に続発する.高度の拡張を生じるため適切に減圧されないと穿孔を生じ致命的となることがある.
2)慢性偽性腸閉塞:
慢性型(chronic intestinal pse­udo-obstruction:CIPO)は原発性と,全身性硬化症(SSc),アミロイドーシス,Parkinson
病やミトコンドリア脳筋症などの基礎疾患に併発する続発性に分類される.小腸と結腸が障害される例が多いが,大腸限局型や食道や胃が侵される例もある.
疫学
 厚労省研究班の調査ではわが国のCIPO患者数は約1300人とまれな疾患で,平均年齢57.8歳,男女比1:1.44でやや女性に多い傾向であった.約6割が原発性で,続発性では全身性硬化症によるものが多い.
病態生理・病理
 腸管蠕動低下による腸閉塞症状に加え,ときに腸内細菌異常増殖症候群による下痢も認められる.さらに高度腸管拡張による粘膜変性,あるいは術後の短腸症候群で消化吸収能が廃絶する(腸管不全).病理学的に,腸管平滑筋障害型,神経叢障害型,Cajal介在細胞障害型があげられるが,未解明な部分も多い.
臨床症状
 腹部膨満感が最も多く,嘔吐,腹痛,便秘などの腸閉塞症状が中心であるが,下痢を認めることもある.
診断
 症状と画像所見で診断される(厚労省研究班診断基準).①6カ月以上腸閉塞症状があり,そのうち12週は腹部膨満を伴う.②腹部X線検査,腹部CTで腸管拡張または鏡面像を認め(図8-5-33),かつ器質的狭窄が除外される.
 また,腸管蠕動異常の診断にはシネMRIが行われる.
経過・予後
 原発性は生命予後良好であるが著しいQOL低下を伴う.続発性は基礎疾患による.
治療
 難治性疾患であり根治は困難である.したがって治療の目標は症状緩和,消化管減圧による手術回避,intestinal failureへの進展阻止である.一般的に消化管運動促進薬や下剤投与に加え,早期から成分栄養や在宅中心静脈栄養を行う.吸収障害による体重減少は致命的となるため,十分な栄養療法が必要である.結腸限局型であれば結腸切除術が有効であるが,小腸型の場合外科的切除は効果が期待できず,むしろ胃瘻や小腸瘻による減圧の方が治療効果は高い.急性増悪時はイレウス管による減圧が必要となるが,腸管穿孔や絞扼性イレウスを併発したときは手術対象となる. intestinal failureの場合,小腸移植が行われることもある.[中島 淳・松橋信行]
■文献
平成23年度厚労省研究班編:慢性偽性腸閉塞症の診療ガイド.http://www-user.yokohama-cu.ac.jp/~cipo/index.html
厚労省研究班 慢性特発性偽性腸閉塞症(CIIP)の我が国における疫学・診断・治療の実態調査研究班:平成23年度研究報告書(研究代表者 中島 淳).坂本康成,稲森正彦,中島 淳:偽性腸閉塞.小腸疾患-診断から治療まで,p.176-180,診断と治療社,2010.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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