改訂新版 世界大百科事典 「免疫促進剤」の意味・わかりやすい解説
免疫促進剤 (めんえきそくしんざい)
癌患者では,種々の段階で免疫応答能が障害されていることが種々の系で証明されている。癌患者のこのような免疫学的背景から,治療に免疫促進剤などを用いて患者の免疫能を増強し,自己癌に対する免疫抵抗性をも誘導しようとするいわゆる非特異的免疫療法が広く行われている。免疫促進剤は,できるだけ化学療法や放射線,手術などによって癌細胞を除去し,なお残存する癌細胞を免疫学的機序によって排除する場合や,あるいは腫瘍特異抗原を用いて強化免疫を行う能動的免疫療法と組み合わせて用いられている。
免疫促進剤として現在のところ広く用いられているのは,BCG,ペニシリン処理溶連菌(OK-432),コリネバクテリウム・パルブムCorynebacterium parvum,コリネバクテリウム・リクエファシエンスC.liquefaciensなどの生菌,およびその菌体成分,レンチナン,PS-Kなどの多糖体,さらにはレバミゾール,ビタミンA,コエンザイムQ,ベスタチン,ポリヌクレオチド(poly A=U,poly I=C)などである。なかでも最もよく使われているのはBCGとその菌体成分であり,その作用機序や治療結果も多数報告されている。すなわち免疫抵抗性の誘導は,BCGの直接作用ではなく,BCG感染に向けられた宿主の遅延型反応が引金をなす細胞性免疫反応が関与しており,種々の移植腫瘍系の実験から,BCGが腫瘍特異的キラーT細胞の誘導の増強とマクロファージの活性化に効果があるのではないかという可能性が報告されている。BCGは,急性白血病,悪性黒色腫をはじめ乳癌,肺癌など多種の悪性腫瘍に用いられ,有効であるとの報告が多い。また,生菌を用いる場合,力価の安定性や副作用も多いので,精製した菌体成分として細胞壁骨格成分cell wall skeleton(CWS)がよく用いられる。
→免疫
執筆者:帯刀 益夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報