兼ねる(読み)カネル

デジタル大辞泉 「兼ねる」の意味・読み・例文・類語

か・ねる【兼ねる】

[動ナ下一][文]か・ぬ[ナ下二]
一つで二つ以上の働きをする。
㋐一つの物が二つ以上の働きを合わせもつ。一つの物が二つ以上の用をする。「大は小を―・ねる」「書斎応接間とを―・ねた部屋」
㋑一人が二つ以上の職を受け持つ。他の仕事も合わせ行う。兼任する。「首相が外相を―・ねる」「商用を―・ねて上京する」
一方だけでなく、他方まで考える。遠慮する。はばかる。「気を―・ねる」
母親が兄の手前を―・ねて折り折りひどく𠮟ることがあり」〈独歩・春の鳥〉
将来のことまで考える。予想する。予定する。
八百万やほよろづ千年ちとせを―・ねて定めけむ奈良の都は」〈・一〇四七〉
他の動詞の連用形に付いて用いる。
㋐…しようとして、できない。…することがむずかしい。「納得し―・ねる」「何とも言い―・ねる」
㋑(「…かねない」などの形で)…するかもしれない。…しそうだ。「悪口も言い出し―・ねない」

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

精選版 日本国語大辞典 「兼ねる」の意味・読み・例文・類語

か・ねる【兼】

  1. 〘 他動詞 ナ行下一段活用 〙
    [ 文語形 ]か・ぬ 〘 他動詞 ナ行下二段活用 〙
  2. [ 一 ]
    1. 二つ以上を合わせる。合わせ持つ。
      1. [初出の実例]「故に、行、両種の見を詠(カネ)たり」(出典:金剛般若経讚述仁和元年点(885))
    2. 主となることのついでに他のことをも合わせおこなう。特に、本務以外に他の仕事も合わせてつとめる。兼任する。
      1. [初出の実例]「納言(ものまうすつかさ)(カネ)宮内卿(みやのうちのかみ)五位(いつつのくらゐ)舎人王(とねりのおほきみ)」(出典:日本書紀(720)天武九年七月(北野本訓))
      2. 「蓮華寺では下宿を兼ねた」(出典:破戒(1906)〈島崎藤村〉一)
    3. 将来の事をも考慮に入れる。予定する。予想する。あらかじめ心配する。
      1. [初出の実例]「伊香保ろの岨(そひ)の榛原ねもころに将来(おく)をな加禰(カネ)そ現在(まさか)し善かば」(出典:万葉集(8C後)一四・三四一〇)
      2. 「長生殿のふるきためしはゆゆしくて、はねをかはさむとはひきかへて、彌勒のよをかねたまふ」(出典:源氏物語(1001‐14頃)夕顔)
    4. 遠慮する。気がねをする。
      1. [初出の実例]「虎は又、十郎が心をかねて衣ひきかづきうちふしぬ」(出典:曾我物語(南北朝頃)六)
      2. 「母親が兄の手前を兼(カ)ねて折り折り痛(ひど)く叱ることがあり」(出典:春の鳥(1904)〈国木田独歩〉三)
  3. [ 二 ] ( 補助動詞として用いられる。動詞の連用形に付いて )
    1. …し続けることができない。…しようとしてもできない。
      1. [初出の実例]「玉藻(たまも)刈る沖へは漕がじしきたへの枕のあたり忘れ可禰(カネ)つも」(出典:万葉集(8C後)一・七二)
      2. 「隈なきものいひも、さだめかねていたくうちなげく」(出典:源氏物語(1001‐14頃)帚木)
    2. かねない(兼━)

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報 | 凡例

世界大百科事典(旧版)内の兼ねるの言及

【歌舞伎】より

… 中期以降しだいに一人一役柄の原則が崩れ,文化文政のころになると,一人の役者がいくつもの役柄を兼ねて演じ分けることを良しとする風潮さえ生まれた。3世中村歌右衛門から,〈兼ねる〉というのを名優の名誉ある称号であるとすることも始まった。現在では,その俳優の芸風や人柄(にん)(容姿をもとにした芸域),年齢などによっておのずから制約はされるものの,そのかぎりではいくつかの役柄の役を兼ねる例が多い。…

※「兼ねる」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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