内科学 第10版 「内分泌障害性ミオパチー」の解説
内分泌障害性ミオパチー(代謝・内分泌障害性ミオパチー)
骨格筋に強く作用する副腎皮質ホルモン,甲状腺ホルモン,性ホルモンなどの過剰あるいは欠乏により筋障害が生じる.また先端巨大症,下垂体機能低下症,副甲状腺機能低下症などでもミオパチーを生じることがある.
病因・病態生理・臨床症状・検査成績
1)副腎皮質ホルモン(医原性ステロイドミオパチーを含む):
副腎皮質ステロイドホルモンの過剰分泌により,近位筋優位の筋力低下と筋のやせが認められ,特に下半身の筋力低下により立ち上がることや階段を昇ることが困難となる.筋症状の出現は緩徐であるが,まれに急性発症も知られている.血清CKの上昇は通常認められず,筋生検ではタイプ2線維の選択的萎縮とグリコーゲンの増加を認める.
医原性ステロイドミオパチーの診断は,副腎皮質ステロイドホルモンを使用している際に自覚的/他覚的な筋症状が現れ,血清CKは上昇せず筋電図では筋原性かあるいは正常所見を示す場合に考慮し,休薬や減量で改善傾向がみられれば確定する.特に構造式でステロイド骨格の9αの位置にフッ素がついたものは避け,腎機能低下があれば減量し,隔日投与などを行う.本症が始まると尿中へのクレアチン排泄が増加するので,モニターすると早目に発症を予測できる.
2)甲状腺ホルモン:
a)甲状腺中毒性ミオパチー:甲状腺機能亢進症は筋力低下や筋萎縮を高率に伴い,筋は大変やわらかくなり,これを筋症状に含めると全例にミオパチーを認めるという立場もある.近位筋中心に緩徐に筋力低下が生じるため階段昇りや洗髪時に脱力を自覚する.血清CKは正常で血清クレアチンの上昇と著明なクレアチン尿を示し,筋電図では筋原性変化を認める.原疾患の治療により改善を示す.なお甲状腺機能亢進症には低カリウム性周期性四肢麻痺や重症筋無力症を合併することがあるので鑑別が必要である.
b)甲状腺機能低下性ミオパチー:甲状腺機能が低下すると動作緩慢,筋力低下,筋のこわばり感が出現する.近位筋優位の筋力低下,筋仮性肥大がみられ把握すると硬い.血清CKは著明に上昇し,筋ジストロフィや多発性筋炎などとも鑑別を必要とする.尿中のクレアチニンやクレアチンは低値を示す.治療は原疾患のホルモン補充療法により改善を示す. 筋の仮性肥大を特徴とする特殊例があり,乳児に生じたクレチン症のなかで乳児ヘラクレスとも称されるKocher-Debré-Sémélaigne症候群と,成人にみられる有痛性筋攣縮を伴うHoffmann症候群とが知られている.[依藤史郎]
出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報