出版取次業(読み)しゅっぱんとりつぎぎょう

日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

出版取次業
しゅっぱんとりつぎぎょう

出版社と小売書店の間にあって、雑誌、書籍など出版物を取次販売する業種。一般の卸売(おろしうり)業に該当するが、出版業界では、取次または取次販売会社とよんでいる。一般の卸売業は通例、商品を自己資本で仕入れて卸売りするが、出版取次は、明治時代の草創期より出版社―書店間の注文を取り次いで口銭を得る仲介業の性格を強めてきたという歴史的経緯から、自然に取次という呼称が定着した。ちなみに欧米の出版業界では、自立した卸売業(ホールセラーwholesaler)と、出版社の流通代行機関としての取次業(ディストリビューターdistributor)を明確に区別している。

[村上信明]

機能

出版取次の機能を業務内容からみると、商的流通機能として、仕入れ、販売、金融(代金の回収・支払い)、情報の提供・処理、書店コンサルティングなどの諸機能があり、物的流通機能として、集荷、配送、在庫管理、返品処理などの諸機能がある。

[村上信明]

歴史

取次業は、出版社の販売機能が分化し、発展したものである。少量出版の明治初期までは出版元が卸と小売りを兼ねていたが、出版物が量産され始めた明治中期(1880年代)から専業取次が相次いで出現した。初期の大手取次は新聞卸か小売書店との兼業がほとんどであった。取次を中軸とする日本独特の出版流通機構が確立するのは、返品条件付き売買制(委託販売制)が定着し、定価販売制が業界内協定で始まった1919年(大正8)からである。以後、大正末期から昭和初期にかけての雑誌ブームや円本全集(廉価版全集)ブームによって、取次の販売網は飛躍的に拡大した。当時は、書籍・雑誌の総合取次である東京堂、北隆館、東海堂、大東館を四大取次とよんだ。この4社は、雑誌流通において独占的支配力を獲得するとともに、出版流通全般で大きな指導力を発揮した。戦時体制下の1941年(昭和16)、国策によって大小約300の取次が日本出版配給株式会社(日配)に統合された。出版物の一元的配給機関として設立された日配は、物流機能や情報機能を統制強化し、日本全土に配給網を張り巡らせた。日配は1949年(昭和24)に閉鎖されたが、従業員、物流施設、取引条件など日配の遺産を継承した形で新たに二大取次の東京出版販売(東販、現トーハン)と日本出版販売(日販)、さらに中堅総合取次の大阪屋、中央社、おもに教科書や学習参考書と児童書を取り扱う日教販が出版社や書店の出資で設立された。

 第二次世界大戦後の取次では、上記の旧日配系5社に加えて、復活開業した総合取次の栗田(くりた)出版販売、新規総合取次の太洋社が大手・中堅取次の位置にある。このほか大手総合取次を補完する専門化した書籍取次として、地図・旅行書の日本地図共販、人文・社会科学書の鈴木書店、法律・経済書の明文図書、理工書の西村書店、学習参考書の共栄図書、医書の鍬谷(くわたに)書店、コンピュータ書の誠光堂書籍などがある。これら出版専業取次とは別に、新聞や雑貨品といっしょに雑誌、コミック本、文庫本などを駅売店や市中スタンドに卸す即売(そくばい)業者が1950年代後半からの週刊誌ブームを契機に販売網を拡張した。啓徳社、東京即売、東都春陽堂、滝山会は首都圏の私鉄駅売店ルートを分けあう四大即売会社である。JR各社(旧国鉄)のキヨスクルートにおける即売機能を担っているのが鉄道弘済会である。

 取次の数は、即売業者を含めて日本出版取次協会の会員が40社(2000年10月現在)であり、ほか第二次取次(元取次である大手・中堅取次などから商品を仕入れて異業種小売店や市中スタンドに卸す地域小取次)や異業種卸との兼業取次が約50社と推定される。

[村上信明]

業績

日本の各種出版統計の2000年版によると、出版社数は4406社(2000年3月末現在、『出版年鑑』より)、小売書店数は文具兼業店や音楽・映像ソフトとの複合店、百貨店やスーパー、大学生協など異業種の書籍売場を合わせて推定約2万店舗。これら出版社と小売書店のそれぞれが大手・中堅取次のどれかと取引している。

 トーハンと日販の二大取次はともに、取引出版社数が3000社以上、取引書店数が7000店から8000店に上る。加えて両社はそれぞれコンビニエンス・ストア1万店舗以上に雑誌、コミック本、文庫本を卸している。他方、中堅取次各社は、取引出版社数が1000~2000社、取引書店数が1000~2000店舗。中小の専門取次の場合は、それぞれ専門分野の取引出版社が数十社から数百社、取引書店も数十店から数百店。出版社と書店は、大手取次を補完する取引先として、小回りがきくこれらの専門取次と取引している。

 このように取次ルートには、膨大な数の出版社と書店が存在し、書籍が約57万点(1999、『日本書籍総目録』)、雑誌が約3400誌(1999、『出版指標・年報』)も流通している。いまや取次なくして出版流通は成り立たないという構造ができあがっている。

 取次ルート全体の1999年の推定販売実績は、書籍が7億9186万冊、9935億円、雑誌が35億3700万冊、1兆4671億円、合計43億2886万冊、2兆4607億円(『出版指標・年報』)。1999年度の二大取次の売上高(卸高)は、トーハンが7384億円(うち書籍・雑誌以外の商品の売上高643億円)、日販が7629億円(同1164億円)。取次ルートにおける出版総売上高の70%以上を二大取次が占めている。また1980年ごろから二大取次は、オーディオソフト、映像ソフト、パソコンソフトなど書籍以外のニューメディア商品を積極的に取り扱い、マルチメディア型の総合取次を目ざしている。

[村上信明]

現況

受発注システムの新しい動き

大手・中堅取次は、物流と販売の両面でコンピュータシステムのフル活用による業務効率化を図るとともに、書店への情報提供サービスに力を入れている。とりわけ書店との受発注オンライン・ネットワークのシステム構築に各社はしのぎを削る。こうした注文情報処理の対書店オンライン化は、1990年代なかばから対出版社間にも適用が開始されるまでに進展した。さらに1999年(平成11)から2000年にかけて大手・中堅取次は、インターネットを利用して注文を受注し、宅配便で届けるオンライン書店(インターネット書店)の支援に乗り出した。二大取次は、オンライン書店向けに特別の物流システムを整えたほどである。

 ついで二大取次は、印刷会社や電子機器メーカーと提携して新会社をつくり、プリント・オン・デマンド事業(オン・デマンド出版)を始めた。その仕組みは、あらかじめ出版社と契約した書籍のコンテンツ(中身)を電子データ化してコンピュータに収録しておき、たった1冊の注文でもすぐに印刷製本して短期日に直接読者に宅配便で届けるという、在庫をもたない出版販売システムである。ついに取次が自ら出版し自ら読者に売る時代を迎えたわけである。その反面、情報伝達の垣根のないインターネットの普及と、ドア・ツー・ドアの迅速物流を基本とする宅配便の定着は、出版社―書店の直取引、あるいは出版社―読者の直販といった、取次ルート抜きの出版流通を増大させる可能性もある。ちなみに宅配便最大手のヤマト運輸が、中堅取次の栗田出版販売との提携により1986年(昭和61)に設立した書籍通販会社のブックサービスは、96年(平成8)からインターネットでの受注を開始し、99年にそのネット受注システムを改善したところ、99年度売上高は39億6257万円(前年比15.4%増)となった。

[村上信明]

返品率上昇と市場寡占化

取次各社は、日本の出版文化の発展に多大な貢献をしたが、出版業界が高度成長から低成長に入った1970年代中ごろから、返品増大と二大取次による市場寡占化という大きな問題を抱え、その問題点は公正取引委員会からも指摘され、出版物の再販制(再販売価格維持契約制度)見直しの論拠の一つにもなった。1999年の返品率は、書籍が40%、雑誌が29.6%で、ともに1975年よりも10ポイント以上も上昇している(データは『出版指標・年報』より)。この過剰返品状態と1997年以降の連続マイナス成長によって、どの取次も経営悪化を招いている。書店が低リスクで陳列販売できる返品条件付き売買制度(取次ルート特有の変則的委託返品制)は、運用の抜本的改革を余儀なくされている。

 取次ルートの総売上高の70%以上を二大取次が占める寡占化についても、公取委の「再販問題検討のための政府規制等と競争政策に関する研究会」は、「二大取次を通さないと、出版社が書籍・雑誌を流通させにくい仕組みになっている」とみて、客注文への対応の遅れ、高返品によるコスト増大、流通の多様化への妨げなどの弊害を指摘する報告書を、1998年に発表した。1953年(昭和28)の独占禁止法改正により例外として容認された出版物の再販制度が、二大取次の流通寡占とそれによる弊害を増長させてきたというのである。この指摘に対して、再販制維持を主張してきた出版業界団体は、出版流通を一面的にしかみていないとして反論している。

[村上信明]

『田中治男著『ものがたり・東京堂史――明治、大正・昭和にわたる出版流通の歩み』(1975・東販商事)』『村上信明著『出版流通とシステム』(1984・新文化通信社)』『村上信明著『出版流通図鑑』(1988・新文化通信社)』『木下修著『書籍再販と流通寡占』(1997・アルメディア)』『金子晃著『英国書籍再販崩壊の記録』(1998・文化通信社)』『「本とコンピュータ」編集室編『オンライン書店大論争』別冊・本とコンピュータ2(2000・大日本印刷ICC本部)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例