日本大百科全書(ニッポニカ) の解説
分子系統解析に基づく分類
ぶんしけいとうかいせきにもとづくぶんるい
遺伝子の違いに着目して生物を分類する方法であり、系統分類の一つ。系統(祖先と子孫の関係)は生物の進化の歴史を表すものであるが、これまでの分類体系はかならずしも系統関係が反映されたものではなかった。生物は種ごとにDNAの塩基配列やタンパク質のアミノ酸配列が異なる。生物は、ある共通の祖先から分かれて種が増えていくが、分かれたあとの経過時間が長ければ長いほど、塩基配列やアミノ酸配列の違いはより大きくなる。この性質を利用して、種と種が分かれた順番や経過時間を推定すれば、系統樹を描くことができる。これが分子系統解析である。従来の系統分類では、生物の形や性質となって現れている表現型を解析していたが、表現型は環境の影響で平行進化(似通った形態や生態になること)や変異を起こしやすく、真の系統関係を明らかにしにくい。そこで、遺伝子をコードしているDNAの塩基配列を直接解析する方法が望まれていたが、技術の進歩によって塩基配列の読取りと、大量のデータ解析ができるようになり、1990年代には実用的な解析が可能になった。分子系統解析によって描かれる系統樹はDNAの塩基配列という単一の情報源に基づき、一定の算出方法によって描き出されるものであるため、解析する生物数や解析領域を増やすことにより真の系統関係に収束すると考えられる。分子系統解析に基づく分類はさまざまな生物群について行われており、たとえば被子植物を対象とする分類にAPG分類体系がある。
[邑田 仁 2019年3月20日]