剣の巻(読み)つるぎのまき

改訂新版 世界大百科事典 「剣の巻」の意味・わかりやすい解説

剣の巻 (つるぎのまき)

平曲の曲名大秘事3曲の一つ。神代より皇室に伝わる宝剣に草薙剣(くさなぎのつるぎ)がある。素戔嗚(すさのお)尊が出雲に下り,簸(ひ)の川上に赴いたときに,泣いている老夫婦がいたのでわけを尋ねると,頭も尾も八つある大蛇に娘がのまれそうなのだという(〈中音(ちゆうおん)〉)。尊は哀れに思い,策を巡らして大蛇を酒に酔わせて退治した。そのとき,尾から出たのが叢雲剣(むらくものつるぎ)で,それを天照大神に奉ったが,のちに天孫がこの国に下ったときに,宝鏡に添えて渡された(〈中音〉)。その後,日本武(やまとたける)尊が駿河に下ったとき,叛徒が野に火を放ったが,叢雲剣で周囲の草を薙ぎ払ったところ,火は逆のほうに燃えて敵が滅びたので,それ以来草薙剣と名を改めた。下って天の帝(あめのみかど)の代に新羅の僧が盗み出したが,帰国の船が沈みかけたことから剣の祟(たた)りを知り,元へ返した(〈三重(さんじゆう)〉)。また後代,陽成天皇がこの剣を抜くと,電光のように光ったので思わず投げ捨てたところ,ひとりでに鞘(さや)に納まるという奇跡があった(〈拾イ〉)。壇ノ浦の戦で平家が滅びたとき,この剣は安徳天皇とともに海に沈んで再び見つからなかった。占い博士の言によると,出雲の八頭八尾の大蛇が剣を惜しんで,第80代の8歳の安徳天皇と化して剣を取り返して行ったのだということだった。

 いわゆる三種の神器にまつわる説話なので大秘事として扱われたものだが,曲節のうえでは特殊な点は見いだしにくい。能《小鍛冶(こかじ)》などの原拠
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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