(1)能の曲名。五番目物。作者不明。シテは稲荷明神(いなりみようじん)の使の霊狐(れいこ)。三条小鍛冶宗近(ワキ)は剣を打って奉れとの勅命を受けたが,しかるべき相槌(あいづち)の人がないのに困り,稲荷明神に祈願に出かける。すると気高い童子(前ジテ)が現れて激励の言葉を掛ける。童子は中国と日本の伝説を引いて剣の徳を詳しく物語り(〈クセ・中ノリ地〉),心配なく準備にかかれと言い捨てて消え失せる。宗近が帰宅して用意を整えて待つと,霊狐(後ジテ)が現れて相槌を務め,名剣小狐丸(こぎつねまる)を仕上げる。前場は草薙(くさなぎ)の剣の物語が中心だが,ここはクセから直接中ノリ地へ続く形で,他の能に例がない。後場の鍛冶の場面は簡単だが,流派によっては変型の演出で狐足など特殊な足づかいを見せたりすることもある。長唄《小鍛冶》などの原拠。
執筆者:横道 万里雄(2)歌舞伎舞踊。義太夫と長唄の掛合。1939年9月東京明治座で,2世市川猿之助(のちの初世猿翁)の童子のちに稲荷明神,12世片岡仁左衛門の小鍛冶宗近により初演。作詞木村富子,作曲鶴沢道八,杵屋(きねや)佐吉。振付2世花柳寿輔(のちの寿翁)。能《小鍛冶》に拠った歌舞伎舞踊は,《姿花后雛形(すがたのはなのちのひながた)》(1832)のうちの1曲(長唄,2世杵屋勝五郎作曲)などこの曲以前に4曲が知られるが,猿之助は,構成,扮装などは能に準じながら内容的には新感覚で処理した。前・後場とも躍動的な振りと節がつけられ,力強い足拍子で盛り上げている。〈猿翁十種〉の一つ。
執筆者:権藤 芳一
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能の曲目。五番目物、また四番目物にも。五流現行曲。作者不明。名剣の霊験(れいげん)談である。帝(みかど)が霊夢にみた名剣を打たせるため、勅使はそれを三条の小鍛冶宗近(むねちか)(ワキ)に命ずる。相槌(あいづち)を打つ名手のいないことを嘆いた宗近は、氏神である稲荷(いなり)明神に祈誓に出かけると、童子(前シテ)が現れて、古今東西の名剣のいわれを語り、かならず力を貸し与えると約して稲荷山に消える。前シテは老翁(ろうおう)の扮装(ふんそう)でも演じる。宗近は刀工の威儀を整え、鍛冶台を用意し祈念して待つと、稲荷明神(後シテ)が出現して神威をみせ、相槌を打ち、表に小鍛冶宗近、裏に小狐(こぎつね)と作者名を刻み、小狐丸と名づけた名剣が勅使に捧(ささ)げられる。喜多流には、白ずくめの扮装に狐足とよぶ特殊な足使いで演ずる演出がある。ほかにも多様な演出がくふうされており、その舞台の潔さ、小気味よさで人気曲となっている。
歌舞伎(かぶき)舞踊にも小鍛冶物の系列があり、長唄(ながうた)の『姿花后雛形(すがたのはなのちのひながた)』『誘謂色合槌(うちつれていろにあいづち)(新小鍛冶)』『優曲(ゆうきょく)三人小鍛冶(今様小鍛冶)』、昭和になってからも義太夫(ぎだゆう)節による木村富子作『小鍛冶』が上演されている。
[増田正造]
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出典 日外アソシエーツ「歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典」歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典について 情報
…刀匠,刀工などともいう。鍛冶(鍛冶屋)はもともと鋳物師らをも含む金属加工者を指し,製鉄に従事するものを大鍛冶というのに対し,刀鍛冶を小鍛冶と称している。古くは,この両者は兼業していたものであろう。…
…生没年不詳。永延(987‐989)のころ京都三条に住したと伝え,三条小鍛冶と呼称された。能の《小鍛冶》で白狐を相槌に太刀を鍛える刀工はこの宗近のことである。…
…畿内一帯から北陸,東北の南部,四国の東部,江戸では稲荷神をまつる風が濃厚であった。元来火の神ではなく穀霊であり農の神であった稲荷が鍛冶屋の信仰をあつめたことは,謡曲《小鍛冶》の説話に示されている。昔,一乗院が不思議のお告げによって三条小鍛冶宗近に剣を打つように命じた。…
※「小鍛冶」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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