弾芯に劣化ウランを使用した砲弾をいう。劣化ウランは、天然ウランを核燃料や核兵器に使用するために濃縮した後の残存物で、有毒な超硬金属である。劣化ウランの比重は約19で、鉄(約8)の2.5倍、鉛(約11)の1.7倍である。したがって、劣化ウランを弾頭として用いると、鉄や鉛よりも大きな運動エネルギーが得られ、有効射程が25%延びるとともに装甲車両貫通力が大きくなる。さらに、劣化ウランは圧力を加えると発火し、1132℃で燃焼する。目標に着弾し発火した劣化ウラン弾は溶解し、さらに鋭利化して貫通能力が高まる。
劣化ウラン弾はアメリカのほか、ロシア、イギリス、フランスなどによって使用されている。ただし、イギリスは劣化ウラン弾の生産を停止した。日本とドイツは環境汚染を懸念して対戦車砲弾にはタングステンを使用している。
アメリカは、機関砲の20ミリ砲弾、25ミリ砲弾、30ミリ砲弾、戦車砲の105ミリ砲弾、120ミリ砲弾の貫通体に劣化ウランを使用している。1991年の湾岸戦争で米軍戦車は約1万4000発の劣化ウラン弾を発射し、空軍の攻撃機A-10は約94万発の30ミリ砲弾を発射した。その他、ボスニア紛争やコソボ紛争に介入した北大西洋条約機構(NATO)のA-10攻撃機は、ボスニア(現ボスニア・ヘルツェゴビナ)で約1万発、コソボでは約3万1000発の劣化ウラン弾を使用した。劣化ウラン弾は、2003年のイラク戦争においても使用されたといわれている。
劣化ウランは毒性のある重金属で放射性物質でもある。劣化ウランの放射線量は天然ウランの約60%であるが、劣化ウラン(ウラン238)の半減期は45億年と長い。目標に着弾し燃焼すると酸化ウランとなって数百メートルの範囲に飛散する。湾岸戦争後、米兵の間に癌(がん)や免疫不全など「湾岸戦争症候群」とよばれる病気が発生し、ボスニア・ヘルツェゴビナやコソボにおいても白血病の発生率や奇形児の発生率が高くなったという報告がある。これに対してアメリカはイラクにおける健康被害は、油田破壊によって飛散した化学物質の影響や兵士に投与された対毒ガス用ワクチンの副作用による可能性が高いと主張している。また、世界保健機関(WHO)は2001年に劣化ウランと先天性異常発症の関係を否定した。国連環境計画(UNEP)も2001年から2003年にわたるボスニア・ヘルツェゴビナ、コソボにおける調査の結果、劣化ウラン弾の残留物が癌発生に関係している可能性は低いと報告している。
一方、1996年に国連人権小委員会は「燃料気化爆弾、ナパーム、クラスター爆弾、劣化ウランが含まれる兵器」の「生産と拡散の制限」を要求している。また、2008年12月には、141か国がUNEP、WHOおよび国際原子力機関(IAEA)に対して、2010年までに劣化ウラン弾に関するリサーチをアップデートするよう要請していた。現在、イラクにおける劣化ウランの影響に関しては、UNEP、WHOおよびIAEAが協議を行っている。UNEPはイラク人専門家に対しワークショップを開催し、国際機関も関与する形でイラク人による現地予備調査が実施されている。
[村井友秀]
『国際行動センター・劣化ウラン教育プロジェクト編、新倉修監訳『劣化ウラン弾――湾岸戦争で何が行われたか』(1998・日本評論社)』▽『森住卓著『イラク・湾岸戦争の子どもたち――劣化ウラン弾は何をもたらしたか』(2002・高文研)』▽『劣化ウラン研究会著『放射能兵器劣化ウラン――核の戦場 ウラン汚染地帯』(2003・技術と人間)』▽『田城明著『知られざるヒバクシャ――劣化ウラン弾の実態』(2003・大学教育出版)』▽『佐藤真紀著『戦火の爪あとに生きる――劣化ウラン弾とイラクの子どもたち』(2006・童話館出版)』▽『肥田舜太郎・鎌仲ひとみ著『内部被曝の脅威――原爆から劣化ウラン弾まで』(ちくま新書)』
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