翻訳|air force
一般に軍隊は陸軍,海軍,空軍の3軍で構成されており,通常,空軍は航空機,ミサイルをおもな武器とし,主として空中,宇宙空間を活動の舞台としている。またアメリカの戦闘空軍,太平洋空軍,第5空軍などのように,上記空軍の編制上の部隊単位名としても使用される。なおair forceは陸・海・空軍の全航空部隊を総称する言葉としても使用される。
近代軍は陸軍に始まり,次いで海軍が生まれた。1903年アメリカのライト兄弟による動力飛行機の初飛行以降,世界の列強は航空機の軍用化につとめ,第1次世界大戦で軍用機は陸・海軍に所属し,開戦当初は偵察を主としたが,やがて空中戦闘,爆撃などに使用され注目を浴びた。第1次大戦における航空機の活躍に関心をもったイギリスは,資源と予算の効率的使用をも考慮して,18年4月,第3の軍種として空軍を独立させ,敵領土攻撃のための爆撃機と国土防衛のための戦闘機の整備を推進した。1920年代イタリアのG.ドゥエやアメリカのW.ミッチェルなどが,大型爆撃機で敵の軍事,工業,政治の中心を反復爆撃することにより軍需生産を崩壊させ,国民の抗戦意志を挫折させることが可能であり,航空戦力が戦争の勝敗を決定するという空軍万能論を展開した。第1次大戦以来の作戦教訓,航空兵器の進歩は空軍万能論と相まち,従来の陸・海軍支援(協同)作戦とともに独立して行う戦略航空作戦思想を定着させ,逐次イタリア,カナダ,ドイツ(1935年再軍備時)などが空軍を独立させた。
第2次大戦で空軍は,即応性,機動突破力,打撃力などの特性を生かし,ドイツ軍によるポーランド電撃作戦のような陸・海軍との協同作戦において主役的威力を発揮し,またイギリス空軍の国土防空やアメリカ陸軍航空部隊の対日戦略攻撃のような独立した航空作戦において,戦争を支配する力を実証した。特にイギリスのレーダー,アメリカのB29爆撃機,原子爆弾などのような新兵器,高性能兵器が航空戦力の向上に大きく貢献し,戦勢を左右した。
第2次大戦後,航空機のジェット化およびレーダー,ミサイル,コンピューターなどの開発や性能向上が進められたが,特にミサイルは航空機などの搭載武器としてだけでなく,単独の兵器として大陸間弾道ミサイル(ICBM)などが開発され,核兵器の進歩と相まち,航空戦力は飛躍的に強化された。
このような情勢を背景として,多くの国が航空機およびミサイルをおもな武器とする空軍を独立させた(アメリカは1947年)。第2次大戦後勃発した朝鮮戦争,ベトナム戦争,中東戦争などでは航空機,ミサイル,レーダーなどからなる航空戦力が多角的な能力を発揮し,戦争支配の度合を強めていった。湾岸戦争では航空戦力が初動で航空優勢を確保し,誘導爆弾,巡航ミサイルなどの精密誘導兵器が国家指導部などを正確に攻撃して,戦争全体の帰趨に多大な影響を与えた。
日本では,フランスからの輸入機による1910年の徳川・日野両大尉の初飛行以来,陸・海軍の航空部隊として発展した。空軍独立は第1次大戦ころより論議され,第2次大戦とともに再燃したが実現しなかった。54年陸上・海上両自衛隊と並び航空自衛隊が設置され現在に及んでいる。
想定されている主要な航空作戦には次のようなものがある。
戦略航空攻撃と戦略ミサイル防衛とに区分できる。
(1)戦略航空攻撃 敵の戦争遂行能力と意志を粉砕するため,通常,核兵器を使用し,敵の都市,産業,軍事基地などの戦争策源地を攻撃・破壊しようとするもので,戦略爆撃機,ICBM,潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)などによって行われる。
(2)戦略ミサイル防衛 戦略ミサイル攻撃を阻止するため行う作戦である。弾道ミサイルによる攻撃に対しては,長距離レーダー,人工衛星などによって警戒・監視し,攻撃を探知すれば一部地域では弾道ミサイル迎撃ミサイル(ABM)によって阻止する。ただしこの完全阻止は不可能と考えられ,対策としてミサイル,航空機による敵国に対する報復攻撃が準備されている。
戦域において個々の戦闘を有利に展開するため,各種航空機,ミサイルなどを使用して行う局地的作戦で,おおむね次のように区分することができる。
(1)航空優勢の確保 自軍の航空機が敵に阻止されることなく活動できるようにするため,敵の航空戦力を撃破または無力化する作戦で,敵の航空基地,ミサイル基地などに侵攻して攻撃を加える攻勢的な作戦と,来攻する敵航空機などを要撃する防勢的な作戦(戦術防空)などによって行われる。
(2)航空阻止 航空攻撃によって敵陸海戦力を撃破または無力化しようとする行動および敵の後方連絡線等を破壊し,あるいは敵の増援部隊を撃破して前線部隊を孤立化または弱化させる行動をいい,燃料・物資集積所等の敵軍事基地,港湾など侵略拠点に対する攻撃,上陸船団・空挺部隊に対する上陸・着陸前の攻撃などである。
(3)近接航空支援 戦場およびその周辺において作戦中の陸上部隊の要請に基づき,味方の陸上部隊の行動を妨害する敵陸上戦力に対する航空攻撃をいい,戦場における緊要目標の攻撃を行う。
(4)敵防空システム制圧 戦域における攻勢対航空の一環として,敵の対空砲,地対空ミサイルなど防空機能を破壊する作戦をいう。
敵の侵攻企図の破砕を目的として,主として航空機による攻撃に対して地上レーダーや空中にある早期警戒管制機などの航空警戒管制組織によって警戒・監視し,攻撃を探知すれば,戦闘機,地対空ミサイルなどによって組織的にこれを阻止する作戦である。
上記の主要諸作戦を支援するため次のような作戦などを行う。(1)偵察衛星,偵察機などによる戦略・戦術偵察。(2)輸送機による全地球規模を含む戦略・戦術輸送。(3)電子戦,航空救難など。
空軍とは別個に陸・海軍がそれぞれ作戦の特性に応じて必要な航空部隊をもつ国が多い。一般に,陸軍は戦場地域における偵察,対戦車戦闘,輸送などを行う部隊をもち,海軍は敵海軍部隊,特に潜水艦の哨戒・攻撃,味方の海軍部隊や船舶の護衛,機雷戦などのほか戦術航空作戦を遂行するための部隊をもつ。なお,航空部隊ではないが戦略航空攻撃に使用されるSLBMを装備した戦略核部隊をもアメリカ,ロシアなどの海軍が保持している。
世界に空軍をもつ国は100ヵ国以上あるが,内容には大きな差があり,戦略航空作戦機能をもつ国,それ以外の全作戦機能をもつ国,支援作戦機能しかもたない国に大別できる。軍が陸・海・空・戦略ロケット・国土防空の5軍編成のロシア(旧ソ連)では,空軍,戦略ロケット軍,国土防空軍が一般の空軍に,統一軍で機動・海上・航空・通信の4コマンド編成のカナダでは,主として航空コマンドが一般の空軍に相当する。またスイス,オーストリアのように航空部隊を陸軍に所属させる国が十数ヵ国,あるいはマルタ,フィジーのようにまったく航空部隊をもたない国も数ヵ国ある。なお北大西洋条約機構(NATO)のように連合空軍を構成する国や二国間条約によって協同する国もある。
アメリカ,ロシアをはじめフランス,イギリス,中国の空軍がこれにあたる。これらの国は核兵器を保持し,戦略爆撃機,ICBM,SLBMおよび人工衛星などをもって戦略航空作戦部隊を編制し,その他各種の航空機,ミサイルなどをもって戦術航空作戦部隊および支援のための航空作戦部隊を編制している。アメリカ,ロシア(ソ連)は航空機,ミサイル,宇宙機器ともみずから開発・生産し,かつ世界的に輸出・供与してきており,ほかの3国も戦闘機,輸送機などを開発・生産(ライセンス生産を含む)し,一部輸出もしている。なおフランス,イギリスなど関係諸国間で共同開発・生産に当たっている国もある。
各国空軍の大部分はこの分類に属するが,保有作戦機も500機以上(数ヵ国)から100機以下(約20ヵ国)まであり,能力的には相当の差がある。このうち有力なグループはNATO加盟国,東アジア諸国,非同盟諸国中の大国などで,航空機,ミサイルなどを装備し,航空攻撃,防空,偵察,輸送など作戦機能別部隊を保持しており,イギリスやカナダのように海上航空作戦機能をあわせもつ国もある。アフリカ,東南アジア,ラテン・アメリカなどのいわゆる第三世界諸国の大部分は,上記機能を全部もっていても規模が小さく,攻撃など一部の機能しかもたないものも多い。多くの国では装備兵器をおもに輸入・供与にたより,一部をライセンス生産によって取得しているが,ドイツ,イタリア,カナダ,スウェーデン,イスラエル,ブラジルなどは自力または共同開発によって戦闘機,輸送機などを開発・生産し,一部輸出している。
ハイチ,ベニン,ブルネイなどラテン・アメリカ,南アフリカ,東南アジアの一部約20ヵ国がこれにあたり,輸送または対ゲリラ戦程度の航空機を数機ないし20数機保持している。
→軍用機 →航空自衛隊 →ミサイル
執筆者:植弘 親孝+千川 一司
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
主として航空機およびミサイルを使って、空中ないし宇宙を活動領域とする軍隊の名称。陸軍、海軍と対比する軍種であるが、独立空軍としての歴史がそれらより浅いことから、陸・海軍の編成下にある航空部隊までを総称して使われることもある。これは、各国の空軍が任務として課せられている範囲がそれぞれ相違していることにもよる。一般的には航空優勢(制空権)の獲得、戦略目標や地上・海上の戦術目標の攻撃・破壊、防空などを行って、戦争目的の達成に寄与し、その力によって戦争を抑止するのが空軍の任務であるが、ロシアでは戦略ロケット軍、国土防空軍が空軍と分離した軍種になっているし、イギリスなどでは、洋上哨戒(しょうかい)が海軍ではなくて空軍の任務に入る。前線の陸軍部隊を支援するヘリコプター兵力とか、防空ミサイルの所管とかは各国で異なり、空軍の任務範囲が相違してくる。
航空機が初めて戦争に参加したのは第一次世界大戦で、当時は陸・海軍の一部であった。大戦後、航空機の重要性が認識されて、イギリス、フランス、ドイツ、イタリアなどヨーロッパ諸国で独立の空軍を創設した。ただ海軍の艦載用機や基地防空用機については、海軍航空隊として分離する形をとった。これに反して日本、アメリカなどは、強大な海軍力をもって海洋作戦を主とする海軍の航空部隊兵力が大きいため、依然として陸・海両軍への分属主義をとったままであった。第二次大戦では戦略航空部隊が活躍し、とくに核爆弾の出現によって戦略攻撃力は従来とまったく違う意味をもつようになった。これを契機にアメリカでも1947年に空軍が独立し、以後独立空軍の編成が世界の大勢になった。ただ海洋国は依然として相当な兵力をもつ海軍航空隊を維持しているし、陸軍も相当数の陸戦直接協力の航空機を保有している国が多い。強大な陸軍兵力をもつロシアが陸軍航空隊をもっていないのは例外で、むしろ空軍(前線航空部隊)の陸軍に対する従属性を示すものともいえるかも知れない。
空軍の作戦部隊は、(1)戦略航空部隊、(2)戦術航空部隊、(3)防空部隊、(4)空輸部隊に区分され、ほかに支援部隊として、(1)飛行訓練部隊、(2)技術訓練部隊、(3)技術開発・実験部隊、(4)通信・管制部隊、(5)補給部隊などをもつのが通常である。海軍の航空部隊には、(1)空母打撃部隊、(2)哨戒・対潜部隊、(3)上陸支援部隊などがあり、陸軍の航空部隊には、(1)指揮・連絡部隊、(2)前線直接協力・攻撃部隊、(3)輸送・ヘリボーン支援部隊などがある。海・陸軍の航空部隊の機能の一部が、国によって空軍の部隊に含まれるのは前述のとおりである。
戦略航空部隊には、大型の戦略爆撃機、長距離用の戦略偵察機、これらを支援する空中給油機、そして戦略核攻撃用の大型弾道ミサイル(ICBM、IRBM)などの各部隊が含まれる。最近はアメリカ、ロシア両国以外は戦略攻撃力の主体を弾道ミサイルに移し、大型爆撃機を廃止する傾向にあるが、米ロ両国(あるいは中国も)は将来とも大陸間弾道ミサイルと有人爆撃機、それに海軍の潜水艦発射弾道ミサイルの三本柱を、戦略攻撃力の中枢として維持する方針のようである。ただし旧ソ連では、戦略弾道ミサイル部隊を1959年から分離し、戦略ロケット軍とよぶ独立軍種にした。また最近は、戦略偵察機のほかに、空中レーダー早期警戒機や、指揮・管制用の特殊機も主要な機種になってきている。
戦術航空部隊は、戦場制空用の戦闘機、戦闘爆撃機や攻撃機、戦術偵察機、観測機や空中戦術統制機、救難機などの部隊で構成され、戦域作戦支援用の輸送機も指揮下にもつことが通常である。通常爆弾や核爆弾を使っての戦術目標の攻撃、陸・海作戦への協力などを主目的とし、ロシアでは前線航空部隊とよばれて、地上の各軍管区に配属されている。最近の傾向としては、局地のゲリラ戦などに備えて専用の対ゲリラ戦機(COIN機)などを装備したり、電子偵察や電子妨害にあたる電子戦用機などを重視する装備が目だつ。
防空部隊は、防空戦闘機、地対空ミサイルで来襲機に対する要撃戦闘にあたるため、レーダー警戒、管制・指揮の施設も重要な部隊の構成要素になる。最近はその担当範囲が大気圏外にまで拡大され、人工衛星を使った弾道ミサイル早期警戒・探知、相手の偵察衛星に対する追跡、衛星や弾道ミサイル要撃などの機能ももっている。アメリカ空軍では1968年に従来の防空軍団を宇宙航空防空軍団に改組し、77年にこれが解体されたとき、有人機防空機能を戦術航空軍団に、宇宙監視防衛機能を戦略航空軍団に移したが、今日では戦略・戦術作戦機と弾道ミサイルの軍団に分割し、おのおのが独立した司令部を有している。
空輸部隊は、指揮・管理機構を一元化し、輸送機の能力を最大限に発揮させようとするのが各国の傾向で、空軍、陸軍、海軍の全部隊の輸送支援を一括担当する第四軍的な性格をもたせており、陸・海軍や戦域部隊への分属は最小限にとどめている。このため、アメリカの緊急展開軍(RDF)の空輸とか、戦略物資や補給物品の空輸、各国で陸軍に所属する空挺(くうてい)部隊の輸送などは、すべて空軍の空輸部隊の担任になっている。
[青木謙知]
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