タングステン(読み)たんぐすてん(英語表記)tungsten

翻訳|tungsten

日本大百科全書(ニッポニカ) 「タングステン」の意味・わかりやすい解説

タングステン
たんぐすてん
tungsten

周期表第6族に属し、クロム族元素の一つ。原子番号74、元素記号W。ウォルフラムwolframとよばれることもあるが、学術用語としてはタングステンが正式名称である。

[岩本振武]

歴史

タングステンを含む鉱石である鉄マンガン重石(Fe,Mn)WO4スズ鉱に混入すると多量のスズがスラグ化されるため、スズをオオカミのようにむさぼり食うとの意味で、その鉱石をウォルフラム石wolframite、元素をウォルフラムといった歴史がある。タングステンの名称はスウェーデン語で「重い石」の意となるtungstenによっている。

[岩本振武]

存在

地殻には比較的広く分布しているが、存在比はあまり高くない。主にタングステン酸塩の鉱物に濃縮されている。主要鉱物として灰重石(かいじゅうせき)CaWO4、鉄マンガン重石などがある。

[岩本振武]

製法

鉄マンガン重石はアルカリ融解してから、灰重石はそのまま、塩酸処理してタングステン酸(三酸化タングステン一水和物)を得、これを水素気流中で700℃、あるいは炭素、ケイ素、ナトリウムマグネシウムなどの還元剤と強熱すると単体金属となる。融解塩中での電解還元でも得られる。これらのタングステン金属は一般に粉末状で、粉末を加圧成形して焼結する粉末冶金(やきん)法によって純金属のインゴット(鋳塊)とする。高純度単結晶は有機物と押し固めた粉末タングステンを水素気流中で2200℃に加熱して得る。

[岩本振武]

性質

白色または灰白色金属。融点沸点ともきわめて高く、いずれも立方晶系のα(アルファ)形、β(ベータ)形のうち、β形は空気中で発火するが、α形は安定で、高温で酸化される。希酸にはあまり溶けず、濃硝酸、王水に溶ける。化合物には酸化数0から+Ⅵまでのものがあり、イソポリ酸塩、ヘテロポリ酸塩としての多種の縮合オキソ酸塩の存在が知られている。

[岩本振武]

用途

電球フィラメントに使われるほか、耐食性が高く耐熱性もあるため、電極、電気接点として、また多くの合金(高速度鋼、永久磁石鋼、ステライト)に利用される。炭化物はとくに硬く、焼結炭化物合金(超硬合金)として工具に使われる。

[岩本振武]



タングステン(データノート)
たんぐすてんでーたのーと

タングステン
 元素記号  W
 原子番号  74
 原子量   183.84
 融点    3400℃
 沸点    5700℃
 比重    19.3(20℃)
 結晶系   立方
 元素存在度 宇宙 0.16(第73位)
          (Si106個当りの原子数)
       地殻 1.5ppm(第52位)
       海水 0.1μg/dm3

タングステンの性質

 線膨張係数 4.44×10-6 K-1(27℃)
 比熱容量  0.0321cal K-1 g-1
 蒸気圧   750mmHg (6970K)
 熱伝導率  0.382cal cm-1 S-1 K-1(20℃)
 抵抗率   5.64×10-6Ωcm(300K)
 ヤング率  3.96kg/cm3(27℃)
 剛性率   1.35×106kg/cm2
 引張り強さ 約13kg/mm2
 硬さ    5~8

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「タングステン」の意味・わかりやすい解説

タングステン
tungsten; wolfram

元素記号W,原子番号 74,原子量 183.84。周期表6族に属する。 1871年スウェーデンの化学者 K.W.シェーレにより発見された。希元素の1つで,主要鉱石は鉄マンガン重石,灰重石などである。地殻の平均存在量 1.5ppm,海水中の存在量はほぼ 0.1 μg/l 。単体は白色ないし灰白色の金属。比重 19.35,硬度 6.5~7.5,融点 3410℃。乾燥空気中では安定であるが,赤熱すると三酸化物となる。水にはおかされないが,水蒸気と反応し,二酸化物を生じる。酸に対しては非常に安定。高速度鋼,永久磁石鋼,耐熱合金,耐食合金などの製造に使われ,純金属は電球のフィラメント,電子管電極,電気接点用金属などとして用いられる。

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