印刷インキ(読み)いんさつインキ(その他表記)printing ink

翻訳|printing ink

改訂新版 世界大百科事典 「印刷インキ」の意味・わかりやすい解説

印刷インキ (いんさつインキ)
printing ink

印刷に用いられるインキ総称。着色材料である顔料と,これを分散させる媒質展色剤ビヒクル)とをよく練り合わせ,さらに必要に応じてドライヤー(乾燥剤)やコンパウンドなどを加えて構成する。印刷インキは,印刷の版式による分類として,凸版インキ平版インキ,凹版インキ,孔版インキに分けられるが,通産大臣官房調査統計部,印刷インキ工業会の統計では,平版インキ,凸版インキおよび凸版輪転インキ,ゴム凸版インキ,ブリキ版インキ,グラビアインキ,特殊グラビアインキ,その他インキ(以上を一般印刷インキと称する),および新聞インキの8種に分類している。印刷インキの基本的構成は塗料と類似しているが,機能的には別種で,次のような条件を満足する必要がある。(1)各種の印刷機に対応した適切な流動性をもち,印刷工程の流れにより転移し忠実に版模様を再現すること。(2)平版印刷では,水とのバランスで画線が形成されるが,油性のインキと水との間で乳化が起こり流動性が失われたり,汚れが出ないこと。(3)印刷インキの流動性が印刷機の上では長時間保持され,印刷素材表面に移ってからは急速に固化して乾燥膜を形成すること。(4)でき上がった印刷物は色,光沢などを十分に再現し,後の工程や使用条件に十分な耐性をもつこと。

 平版インキは量的にも最も多く使用される重要なもので,別名オフセットインキと呼ばれる。金属や樹脂などの版に着肉したインキを直接紙に移さず,一度ゴムの面に移したのち紙に再転写する。ゴムの弾性を利用するため紙の表面が疎でも少ない印圧で美麗な効果が得られる。展色剤はロジン変性フェノール樹脂・アルキド樹脂,植物乾性油,沸点250~300℃の石油系溶剤などからつくられる。ポスター,カレンダー,カタログ,ちらしなどの商業印刷物はほとんど平版インキで刷られる。凸版インキは版面が突起した凸版に使用されるもので,凸版輪転インキもこれに含まれる。このうち,ざら紙や下級紙に用いられるものは,浸透・乾燥するため鉱物油を多くしてある。凸版を使った原色版印刷は鮮明で力強く,高級な美術印刷に利用されるが,これに使用されるインキの組成は平版インキ(枚葉)とほとんど同じである。グラビアインキは凹版シリンダーに用いられる印刷インキで,低沸点溶剤を展色剤の主成分としているので蒸発・乾燥しやすく,高速度印刷が可能である。

 印刷インキに使用される顔料には,色彩が鮮明で着色力が大きく,耐光・耐薬品性がすぐれ,毒性のないことが必要であるが,さらに粒子が練りやすく調子がやわらかなことが重要である。以前は無機顔料も用いられたが,現在では有機顔料がおもに使用される。補助剤としてはワックスなどのコンパウンド,低粘度亜麻仁油ワニス,ゲル弾性を帯びさせる金属セッケン,ドライヤー,酸化防止剤などが用いられる。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「印刷インキ」の意味・わかりやすい解説

印刷インキ
いんさついんき
printing ink

印刷に使われるインキの総称。顔料(がんりょう)をビヒクル(ビークル)vehicle(媒質または展色料(てんしきりょう)ともいう)といっしょに十分練り合わせて細かく分散させてつくる。ビヒクルは油、溶剤、樹脂などを溶かし合わせてつくった透明な液で、印刷に必要な流動性をインキにもたせ、印刷後は速やかに乾いてじょうぶなインキ膜を形成するための材料である。顔料は水に溶けない色料で、カーボンブラック、フタロシアニンブルー、ベンジジンイエロー、ブリリアントカーミン6B、レーキレッドC、チタンホワイトなどが印刷インキ用として多く使われている。また、金色には真鍮(しんちゅう)粉、銀色にはアルミ粉が用いられる。印刷インキにはこのほか、乾燥性や印刷適性を調節するため、少量の助剤が加えられる。印刷インキは印刷方式、印刷される材料によって成分や性質が大幅に異なる。印刷方式により新聞インキ、端物(はもの)インキ、凸版輪転インキ、フレキソインキ(以上凸版印刷用)、枚葉オフセットインキ、オフ輪(オフセット輪転機)インキ、平版新聞インキ(以上平版印刷用)、グラビアインキ、凹版インキ(以上凹版印刷用)、スクリーンインキ、謄写版インキ(以上孔版印刷用)、そのほか磁気インキ、プリント配線などに使うレジストインキ、導電性インキなどもある。印刷される材料は紙が主体であるが、プラスチック、布、金属、ガラスなどさまざまであるから、それに適応した組成のインキが必要である。したがって筆記インキとは根本的に異質のものである。印刷速度の上昇にこたえる速乾性インキ、たとえば紫外線で瞬時に乾くインキ(UVインキ)、環境汚染をなくすための水性グラビアインキや植物油使用のインキ、布地熱転写インキなどが実用化されている。

[平石文雄・山本隆太郎]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「印刷インキ」の意味・わかりやすい解説

印刷インキ
いんさつインキ
printing ink

印刷用のインキ。筆記用インキに比べて,一般に流動性が小さく,塗料と同じくらいの濃度をもつ。歴史は古く,すでに中国では5世紀頃には,植物に粘土,すす,油煙などを混ぜたものが生れていた。 J.グーテンベルクの使用したものも,ワニスとか亜麻仁油に油煙を混合したもので,この種のインキは 18世紀頃まで使用された。 18世紀後半になってようやく色インキがつくられるようになり,各種の顔料を使った色インキの製造が行われるようになったのは 19世紀後半から,化学工業としてのインキ工業が発展したのは 20世紀になってからのことである。成分は顔料,染料と合成樹脂,重合油に分けられ,これを混和,練成したものを熟成して製造するが,高級美術印刷や特殊印刷などに適合するようにインキ製造技術が進歩し,界面活性剤なども材料に利用されている。種類は多く印刷物,印刷機,乾燥形式などの相違によって分類されているが,通常は新聞インキと一般インキに分け,一般インキは平版,凸版,輪転,謄写版,写真版,グラビア,特殊グラビア,ブリキ版などに細分されている。

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百科事典マイペディア 「印刷インキ」の意味・わかりやすい解説

印刷インキ【いんさつインキ】

印刷に用いられるインキの総称。着色材料である顔料と,顔料を分散させる媒質の展色剤(ビヒクル)と,インキの粘度・堅さ・伸びを整える調整剤を緊密に練り合わせたもの。ビヒクルにはワニス,樹脂を溶剤に溶かしたものなどが用いられる。印刷方式により流動性に差がつけられ,凸版インキ,凹版インキ,平版インキに大別される。現在最も多く利用される平版インキは,巻取紙を輪転機にかける平版オフセット印刷で使われ,印刷の高速化に対応したインキが開発されている。また布地などに印刷する捺染(なっせん)印刷では,着色材料に染料を使う。
→関連項目インキ

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