可観測性の理論(読み)かかんそくせいのりろん(その他表記)theory of observation

改訂新版 世界大百科事典 「可観測性の理論」の意味・わかりやすい解説

可観測性の理論 (かかんそくせいのりろん)
theory of observation

対象とするシステムを線形ダイナミカルシステムで表したとき,現時点から過去のある時間区間にわたる出力信号の測定データから,システムの現時点の内部状態を一意的に決めることができるとき,そのシステムは可観測であるという。数学のことばでいえば,システムの状態変数状態空間)の現在値が過去の測定値の時間関数の線形汎関数として求めうるための条件が可観測性である。これは,物理的には,システムの出力と内部状態のつながりぐあいを明確にするために導入された概念であり,入力と内部状態の関係を規定する可制御性controllabilityの概念と双対になる。後者は入力によって状態変数のすべてを制御できるための条件となっており,制御工学立場からは直観的に理解されやすく,したがって最適制御理論が起こった1957-58年ごろに早くも導入されたが,可観測性の概念は60年になって初めてカルマンR.E.Kalmanによって導入された。そして可観測性の必要十分条件と可制御性との双対関係が明らかにされると,これら二つの概念を有機的に結びつけることによって線形ダイナミカルシステム構造を明確にできることがわかってきた。たとえば,線形ダイナミカルシステムの入出力特性を与える伝導関数行列やインパルス応答行列は,可制御かつ可観測な状態変数のみを反映することが示された。このことから,出力信号の測定値より最小次元のシステムモデルを導く方法(これを最小実現という)が確立された。こうして可観測の理論は,可制御性の理論と結びついて,線形システム理論の体系化をうながし,今では現代制御理論の中心概念の一つとなるに至っている。
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