内科学 第10版 「合成・分泌」の解説
合成・分泌(副甲状腺・カルシトニン・ビタミンD)
(1) 副甲状腺ホルモン(PTH)
a.PTHの合成
PTHは84個のアミノ酸よりなる分子量9300のペプチドホルモンである.ヒトPTH遺伝子は第11染色体短腕に存在し,3つのエクソンのうちエクソン3がpro PTH配列の最後の2個のアミノ酸と84個の成熟PTHをコードしている.リボソームprepro PTHが翻訳された後,切断されpro PTHとなる.Pro PTHはさらにGolgi体で成熟PTHへと切断され,分泌顆粒中に蓄積され,分泌刺激に反応し血中へと放出される.
血中Ca2+によりPTH分泌は厳密な抑制的調節を受けているが,血中Ca2+はPTHの合成にも影響を及ぼす.PTH遺伝子の転写は1,25-(OH)2-Dによっても抑制される.
b.PTHの分泌
PTHの分泌は血中Ca2+の上昇により抑制され,低下に伴い促進される(図12-5-1).副甲状腺細胞膜にはCa2+と結合し細胞内に情報を伝達するCa感知受容体(CaSR)が存在する.この受容体はG蛋白共役受容体ファミリーに属し,血中Ca2+との結合によりPTHの分泌を抑制する.
CaSRは副甲状腺以外にも数多くの組織で発現しており,甲状腺C細胞ではカルシトニン分泌の調節,腎尿細管の太いHenle上行脚ではCa再吸収の調節,腎髄質集合管では抗利尿ホルモン反応性の調節,脳の海馬では渇中枢の調節などにかかわる.
CaSRの異常によりさまざまな病態がもたらされる.とりわけ高カルシウム血症が存在するにもかかわらずPTH分泌が抑制されず,同時に尿中Ca排泄の抑制が認められる家族性低カルシウム尿性高カルシウム血症(FHH)患者の多くにCaSR遺伝子の多様な不活性化変異が認められている.また常染色体優性低カルシウム血症(ADH)がCaSR遺伝子の活性化変異によることも明らかとなった.さらに,CaSRに対する自己抗体による副甲状腺機能低下症の症例や,原発性副甲状腺機能亢進症患者の副甲状腺におけるCaSR発現の低下なども報告されている(表12-5-1,12-5-2).
(2)ビタミンD
ビタミンDはビタミンD2とビタミンD3とからなり,ビタミンD3は皮膚において紫外線被曝下で7-dehydrocholesterol(プロビタミンD)からプレビタミンDを介して合成される.ビタミンD2は植物で合成され,両者は食餌中より吸収される.これらのビタミンDは血中ではビタミンD結合蛋白(vitamin D-binding protein:DBP)と結合して運ばれ,肝臓で25位が水酸化された後,腎近位尿細管で1α-ヒドロキシラーゼにより1位が水酸化され活性型の1,25-(OH)2-Dとなる(図12-5-2).1α-ヒドロキシラーゼ遺伝子(CYP27B1)の不活性化変異によりビタミンD依存症I型がもたらされる. PTHは1α-ヒドロキシラーゼ遺伝子の転写を促進し,1α-ヒドロキシラーゼ活性を高めるうえで最も重要な因子である.1α-ヒドロキシラーゼ活性は低リン血症,低カルシウム血症などによっても促進される.一方,PTH分泌の抑制や高リン,高カルシウム血症により1α-ヒドロキシラーゼ活性は抑制され,同時に25-ヒドロキシビタミンD[25-(OH)-D]の大部分は腎で24位が水酸化され生物活性の低い24,25-ジヒドロキシビタミンD[24,25-(OH)2D]となる.1,25-(OH)2-Dはみずから1α-ヒドロキシラーゼ遺伝子の転写を抑制するとともに24ヒドロキシラーゼの発現を誘導することにより24,25-(OH)2Dの産生を高める.
(3)カルシトニン
カルシトニンも血中Ca2+濃度による調節を受けている.PTHとは逆に血中Ca2+の上昇がCaSRを介してカルシトニン分泌を促進する.[松本俊夫]
出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報