改訂新版 世界大百科事典 「呂洞賓」の意味・わかりやすい解説
呂洞賓 (りょどうひん)
Lǚ Dòng bīn
中国,唐末・宋初の道士。生没年不詳。八仙の一人。名は嵓(巌),号は純陽子,回道人。また呂祖,孚佑帝君(ふゆうていくん)などと呼ばれる。近世の代表的な仙人の一人として,宋以後広く民間の信仰を集め,製墨業者の祖神とされるが,その実在性に関しては多くの疑問が存在する。伝承によれば,初め科挙に応じたが及第せず,のち廬山に遊んで八仙の一人鍾離権(しようりけん)に会い,10の試練を課せられたがそのすべてに耐えて,破魔の天遁剣法や竜虎金丹の道術などを授けられた。かくて民衆の救済に努めんことを心に誓い,各地に神出鬼没して奇跡を現し,民衆の災禍を救ったという。金代,全真教が成立するとその五祖の一人にあげられ,全真教の流行につれて呂祖信仰も広く民間に流布した。その生日とされる4月14日は民間の年中行事の一つとして盛大に祝われた。呂祖は,いわば民衆の素朴な願望に応じてつくり出された新しい仙人像を代表するものであり,それゆえに元の雑劇などにも取りあげられて,その結果高い人気を博してきたのである。
執筆者:麦谷 邦夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報