哲学の人間学的原理(読み)てつがくのにんげんがくてきげんり(その他表記)Антропологический принципв философии/Antropologicheskiy printsipv filosofii

日本大百科全書(ニッポニカ) 「哲学の人間学的原理」の意味・わかりやすい解説

哲学の人間学的原理
てつがくのにんげんがくてきげんり
Антропологический принципв философии/Antropologicheskiy printsipv filosofii

19世紀ロシアの革命的民主主義者チェルヌィシェフスキーの著作。ラブロフの『実践的哲学要綱』を批判するために、農奴解放前夜の1860年に発表された。理論党派性を強調する彼の自由主義者攻撃の武器、自然科学的唯物論で防備されたこの論文は、検閲への配慮もあって整然とした展開に欠ける。彼は、ここで人間の有機体としての統一性を標榜(ひょうぼう)し、物質と精神は有機体における同一の本性の異なった現象であると規定、18世紀のフランス唯物論者と同様、心理的現象は有機体としての活動の所産であると考える。また人間を環境の産物と規定して唯物論的決定論を打ち出すが、同時に精神の独立性をも認識し、主体性の宣言としての利己主義倫理学の基礎に据える。その利己主義とは利他主義とともにあり、全体の利益と一致するとした。これらは当時とくに新しい説ではなかったが、実践的要求に裏打ちされたこの原理によって、彼はロシアの同時代人を奮起させようとしたのである。

[大竹由利子]

『松田道雄訳『哲学の人間学的原理』(岩波文庫)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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