日本大百科全書(ニッポニカ) 「善意の人々」の意味・わかりやすい解説
善意の人々
ぜんいのひとびと
Les Hommes de bonne volonté
フランスの作家ジュール・ロマンの大河小説。27巻。1932~46年刊。1908年から33年までの――第一次世界大戦の危機の予兆からヒトラーの台頭に至る――時代のフランス社会の壮大な叙事詩というべき作品。提唱するユナニミスムunanimisme(一体主義)の理想に基づき、少数の人物を中心に構成された物語ではなく、社会の各層を動かしていく人々の集団のダイナミズムそのものを、作者は描こうとする。友情で結ばれたジェルファニオンとジャレが現実主義と夢想の両面を代表する中心でありながらも、物語はそこに収斂(しゅうれん)せず、拡散し断片化する。集団を構成する人々の生が、並列的にかかわり合わぬまま、モザイクのように展開する。しかもその中核には、集団のなかから生まれてくる深い友愛が、「善意」のモラルへの確信が、世界を破局から救うという信念が貫かれているのである。だが、作品の執筆がますます深く破局へと向かっていった時代になされていることが、作者の願いと裏腹に作品に一種パセティックな相貌(そうぼう)を与えてもいる。
[小林 茂]
『山内義雄訳『現代世界文学全集33 ヴェルダン〈善意の人々〉』(1958・新潮社)』