ロマン(読み)ろまん(英語表記)roman フランス語

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ロマン」の意味・わかりやすい解説

ロマン(Jules Romains)
ろまん
Jules Romains
(1885―1972)

フランス詩人小説家、劇作家。本名ルイ・ファリグールLouis Farigoule。オーベルニュ出身だが早くからパリに住み、高等師範学校(エコール・ノルマル・シュペリュール)に学ぶ。1903年秋、雑踏のなかで、個が群衆と都市と一つにつながり一体をなすという啓示を得て、一体主義(ユナニミスム)unanimismeを提唱する。人間性と文明への信頼に基づくこの集団的魂の理想の追求が生涯の文学活動を生み出した。この理念は詩集『一体生活』La Vie unanime(1908)、『ヨーロッパ』(1916)、小説『再生の村』(1906)、『ある男の死』(1911)、『仲間』(1913)などに表現される一方、パリ郊外クレテイユに芸術と労働の一体化した集団生活を目ざしていたデュアメル、ビルドラックなど僧院(アベイ)派の文学者に理論的支柱を与えた。一体主義はさらに、心理的・神秘的表明を『プシシェ(プシケ)』Psyché三部作(1922~29)、世界大の広がりを『善意の人々』(1932~47)によって得た。また演劇の場でも、ルイ・ジューベとの協力から、『クノック』『トルアデック氏の放蕩(ほうとう)』(ともに1923)、『ドノゴ』(1930)などの傑作喜劇が生まれた。30年代に入ると、『ヨーロッパの問題』(1933)以下一連の政治的発言反ファシズムを呼びかけ、37~40年まで国際ペンクラブ会長を務めたのち、40年から45年までアメリカメキシコにあって自由フランスの代弁者であった。46年アカデミー会員。

小林 茂]

『山内義雄訳『ある男の死』(1938・白水社)』『青柳瑞穂訳『プシケ』(新潮文庫)』『岩田豊雄訳『クノック』(新潮文庫)』


ロマン(長編小説)
ろまん
roman フランス語

長編小説本来ラテン語の俗化した方言ロマン語で書かれた物語。市民社会の発達とともに、物語のおもしろさより、人間の内面的苦悩を重視し、複雑な心理を中心に、人間の生きざまを描き、一つの完結した形をとる小説をさすようになる。これに対し物語性を強調する小説はレシrécit、中編小説はヌベルnouvelle、短編小説はコントconteとよばれる。

[船戸英夫]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ロマン」の意味・わかりやすい解説

ロマン
Romains, Jules

[生]1885.8.26. オートロアール,サンジュリアンシャプトイユ
[没]1972.8.14. パリ
フランスの小説家,詩人,劇作家。本名 Louis Farigoule。エコール・ノルマル・シュペリュール (高等師範学校) に学び,しばらく教壇に立つ。宇宙的一体感,個人をこえた集団の意識を認めるユナニミスムを唱え,アベイ派に参加した。詩集『一体的生活』 La Vie unanime (1908) ,『オードと祈り』 Odes et prières (13) ,風刺劇の傑作『クノック,あるいは医学の勝利』 Knock,ou le triomphe de la médecine (23) などのほか,最も重要な作品として大河小説『善意の人々』 Les Hommes de bonne volonté (27巻,32~47) がある。この大作は,第1次世界大戦の足音がバルカン半島に響きはじめる 1908年から,再び次の世界大戦を予想させる,ヒトラーによる政権獲得の年,33年までのヨーロッパ史を描いたものである。アカデミー・フランセーズ会員 (46) 。

ロマン
Roman

ルーマニア北東部,モルドバ地方,ニヤムツ県の工業都市。 14世紀に建設され,中世のモルドバの政治,商業の中心地の一つであった。第2次世界大戦後,急速に工業が発展し,機械,農機具,コンクリート,煉瓦,家具,食品の工場がある。人口8万 192 (1992推計) 。

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