国質所質(読み)くにじちところじち

改訂新版 世界大百科事典 「国質所質」の意味・わかりやすい解説

国質・所質 (くにじちところじち)

中世社会の貸借関係にもとづく債権者の債務者に対する質取り(私的差押え)行為の一形態。この言葉は,15~16世紀の市場法において,市場の平和維持の最も一般的な禁止条項としてあらわれるが,17世紀初頭その姿を消す。国質は,債権者が他国の債務者の債務不履行にさいし,その債務者本人のかわりに,債務者と同じ領国に所属し差押え可能な人,またはその人の動産実力で質取りする行為を意味する。この語は,地域的政治集団としての守護領国制成立とかかわって生まれたもので,この時代,そのほか一揆,郷村,郡などの集団に対応し,それぞれ方質,郷質(ごうじち),郡質などが存在した。所質の所という集団がどのようなものであったか現在必ずしも明確にされていないが,近江の都市的な町場であった堅田が所と称され,また山城大山崎の油座など商工業者の集団にあたえられた特権付与状には,多く国質・所質からの保護がしるされていることなどから,商工業者集団をさすものと想定される。

 このような社会慣行として行われた集団間の質取り行為は,ひじょうに古く,氏族制社会において,他の氏族のメンバーに対する氏族のあるメンバーの債権や債務が,彼の氏族の債権・債務であり,そして同時に彼の氏族の全メンバーの債権・債務であるという〈氏族連帯性の原理〉に由来する。そしてこの国質は,この集団責任の原理が荘園・郷村などの社会的集団,さらには領国という政治的集団の相互関係にまで,変質しつつも拡大再生産されたことをしめすものと位置づけられる。このような質取り慣行に対し,幕府などの国家権力は,路上・市場などの特定アジール(平和領域)的な場での禁止をしたにとどまり,戦国大名分国法においてもその質取り手続上の制限立法はみられるものの,全面的禁止にはいたっていない。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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