日本大百科全書(ニッポニカ) 「クライストロン」の意味・わかりやすい解説
クライストロン
くらいすとろん
klystron
マイクロ波(1ギガヘルツ以上の電気振動)の増幅・発振用の電子管。電子管内の電子の走行速度を入力信号で変調し、これら電子が出力側に達するとき電子流に密度差が生ずるのを、共振空胴により取り出すもので、速度変調管ともよぶ。1935年にドイツのA・A・ハイルとO・ハイル兄弟は、負格子真空管で問題になった電子走行時間の変動を積極的に利用する「速度変調」のアイデアを出した。このアイデアはスタンフォード大学のR・H・バリアンとS・F・バリアン兄弟、およびゼネラル・エレクトリック社のメトカーフにより39年に具体化され、以後クライストロンとして広く用いられている。
電子銃から放射された電子流は、入力信号と共振する空胴共振器(バンチャー)の間隙(かんげき)を通過するとき速度変調される。この電子流は、ある距離を離れた出力用の空胴共振器(キャッチャー)の間隙に達するときに、先の遅い電子に後の速い電子が追い付くという集群作用によって密度変調されている。クライストロンはこの現象を利用して発振や増幅を行う。バンチャーとキャッチャーが別個のものを直進型クライストロンとよび、主として増幅用に用い、また、電子流を反射させて空胴共振器を入出力用に共用したものを反射型クライストロンとよび、発振用に用いる。超大型加速器や核融合プラズマ用にパルス動作で100メガワット連続波で1メガワットのクライストロンもあり、重量はほぼ1トンにも達している。
[岩田倫典]