パラメトリック回路(読み)ぱらめとりっくかいろ(その他表記)parametric circuit

日本大百科全書(ニッポニカ) 「パラメトリック回路」の意味・わかりやすい解説

パラメトリック回路
ぱらめとりっくかいろ
parametric circuit

インダクタンスキャパシタンスなど回路パラメーターの値を時間的に変化させて周波数変換増幅励振)を行う電子回路。リアクタンス回路ともいい、マイクロ波増幅器に用いられる。パラメーター励振の原理は、たとえば、ぶらんこに乗って2倍の周期で同期して上下に体を動かすと、ぶらんこの振れが増大する身近な現象にもみられる。電気回路では、インダクタンスやキャパシタンスのように電気エネルギーを保存するパラメーターを周期的に変化させると、元の周波数とは異なる周波数の電源からエネルギーを受け取って、振動を助長する。この原理に基づく増幅器は、リアクタンスがおもな素子であるため抵抗雑音の発生がないのが特長で、パラメトリック増幅器とかリアクタンス増幅器、メーバー(MAVAR=modulation amplifier by variable reactance)ともよばれ、素子の絶対温度に比例して雑音が少なくなるので、低雑音増幅器として実用されている。

 パラメーター励振現象は、1919年にアレクサンダーソンが指摘しており、1920年以降には可変インダクタンスを用いた分周器が研究された。1954年(昭和29)には東京大学の後藤英一が、発振波形の位相に二安定状態があることを利用した論理回路素子、パラメトロンを発明し、一時コンピュータに利用された。1950年代には鉱石検波器の非線形キャパシタンスの研究から可変容量ダイオードが開発され、これを用いたパラメトリック増幅器がマイクロ波の低雑音増幅器として有効であることが認められた。

 1957年になると、アドラーRobert Adlerが電子ビームと電極間の静電容量を可変リアクタンスとして利用する、電子ビーム・パラメトリック増幅器を発明した。これらが宇宙通信など超遠距離通信に利用されているマイクロ波増幅器で、周囲温度の変化による励振周波数の変動を少なくするため、恒温槽に入れて使用されている。雑音を下げるためにペルチェ素子(-20~-50℃)による電子冷凍槽やガスヘリウム槽(-253℃)が用いられるが、後者は電波天文などの特殊用途に用いられる。

 パラメトリック増幅の原理は、f0の周波数で励振した可変リアクタンスにf1の信号を加えると、回路にはf0f1の和と差の周波数の電流が流れる。これを帯域フィルターでf0f1の和または差の成分のみを取り出すと、電力角速度の比が一定であるというファン・デル・ティールVan der Zielの関係から、周波数の変換と同時に電力増幅ができる。この場合、増幅するためのエネルギーはf0の励振源から得る。

[岩田倫典]


出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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