翻訳|wallpaper
部屋の壁面を保護し,保温,断熱,装飾などを目的として室内の壁面にはりつける紙。西洋では15世紀後期から高価なタピスリー,彩色布地や皮革製壁掛けの代用品として広く使用されてきた。16世紀後期のものは白地に黒の紋章や花模様が木版でプリントされたものが多い。17世紀のイギリスではステンシル刷りの手法をとり入れ,色彩も豊かになり,また後期には華麗なフロックペーパー(細かく砕いたウールくずを紙面に貼付(ちようふ)して絹やビロードなどの風合を出した壁紙)も考案され,ドイツやフランスなどでも流行した。18世紀初期のイギリスの壁紙には,タピスリー,花柄のダマスク織,大理石の模様,打出し細工,羽毛飾などを模倣したタイプがあらわれた。また,花模様の中国産の壁紙の輸入はシノアズリーの流行をもたらすきっかけを与えた。フランスでは18世紀初期まで壁紙はもっぱら下層階級の家で用いられたが,パリの木版画家パピヨンJ.Papillonの活躍によって壁紙の人気が高まった。イギリスの壁紙作家ジャクソンJ.B.Jacksonはイタリアのキアロスクーロをとり入れた壁紙を考案した。18世紀後期ルイ16世時代の代表的な壁紙作家レベイヨンJ.B.Réveillonは古代ローマ壁画などをとり入れたネオ・クラシック様式の壁紙や草花のパターン,シノアズリーの意匠などの壁紙を制作した。彼の壁紙は1791年パリに設立されたジャックマール=ベナールJacquemart et Bénard商会によってひきつがれた。ナポレオン1世の時代から王政復古時代には,デュフールJ.Dufourなどが洗練された風景を主題にした壁紙を制作した。新大陸のアメリカでは,初期の壁紙はイギリスとフランスからの輸入品が主体となっていたが,1739年フィラデルフィアに壁紙工場が設立されてから以後,壁紙は主としてイギリス調のものが主流となった。19世紀には綿布の機械印刷がプリント・テキスタイルの生産量を飛躍的に増大させたことから,1840年代には壁紙生産にも導入され,50年代から生産は急増する。機械印刷による壁紙は,一時的にデザインの質的低下をまねいたが,印刷技術の向上によって,間もなく手がきのものと大差はなくなり,手ごろな価格で人気があった。
19世紀ビクトリア朝時代のイギリスでは,16世紀のタピスリーやルイ16世時代の邸宅の壁板を模した壁紙が流行する。その一方でW.モリスは自然の草花や風景などを文様化したデザインの壁紙を制作した。このスタイルはマクマードやボイジーにうけつがれ,アール・ヌーボー様式の壁紙へと展開し,朝顔,あやめ,フリージアなどエレガントな花模様や風景を単純化して壁紙の意匠にとり入れた。しかし,20世紀になって生活機能を重視するモダンなアパートや住宅のインテリアには,単純で平らな壁面が要求されたので,柄物の凹凸感のある壁紙の需要は減少した。最近になって,住宅デザインの装飾性への評価が高まるにつれて,再び壁紙の需要が高まっている。
現在市販されている壁紙は,紙のほかに布とビニル樹脂加工紙の3種に大別される。まず紙には鳥の子紙に代表される和紙と洋紙とがある。洋紙は色柄が豊富で軽くて張りやすい長所があり,表面の仕上げによって,サルブラ(油絵具で模様をつけたもの),テッコー(絹の紋織模様をあらわした耐水・防虫性のもの),マイカ(雲母や真珠色の光沢のあるもの),クレープ(厚地の紙をちぢませたもの),サテン(更紗模様につや出ししたようなもの),ブロンズ(金属粉末を塗布したもの),フロッキー(短い繊維を表面に糊付けして模様を加えたもの)などのタイプがある。市販の大半は輸入品で,とくにサルブラやテッコーは壁装材としては高級品である。和紙の壁紙は洋紙のものに比べて摩擦や汚れに弱いが,最近では樹脂加工してそれらの欠点を補ったものもみられる。布製品の壁紙は紙製品に比べて丈夫であり,吸音と断熱の効果があるが,ほこりを吸いやすく,色があせやすい欠点もある。絹・毛織物,化繊,紙布(しふ),麻,綿,ガラス繊維などのものがあり,これらはいずれも泉貨紙やクラフト紙で裏打ちされている。最近は塩化ビニル・フィルムを紙,綿布,寒冷紗などで裏打ちし,表面に型押し,プリントによって材質感を出したものもある。これらは通気性はないが,耐水性があるので浴室や洗面所に利用されている。また,紙の表面に木目模様や織物の模様をプリントし,その上に透明な塩化ビニル・フィルムを積層したラミネートも広く一般住宅のインテリアに利用されている。これらの壁紙の張り方には,壁の下地に直接張りつける直(じか)張りと,下張りをしてから上張りをする方法とがある。
執筆者:鍵和田 務
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
おもに装飾用として壁に張り付ける紙。従来は紙や布が主流であったが、今日ではビニル系のシートが一般的である。その普及の要因としては次のことが考えられる。〔1〕塗り壁などの湿式工法に比べ施工が容易なうえ、工期を短縮できる。〔2〕仕上げ工程のなかでの養生が比較的簡単である。〔3〕色彩、柄、地の選択の幅が広く、一定の質を確保しやすい。〔4〕構造材や下地材を保護する。〔5〕遮音、吸音、断熱など、壁体としての要求性能にも寄与する。〔6〕改装時に互換性がある。このような優位性をもつシートも、色、柄、地の面では、めまぐるしい変革を強いられているのが現状である。
豊富な種類をもつ壁紙は、1981年(昭和56)4月1日から防火壁装材認定番号の改正に伴い、材料によって六つに分類された。(1)紙壁紙(加工紙壁紙、紙布壁紙、金属箔(はく)壁紙、合成紙壁紙)、(2)織物壁紙(レーヨン壁紙、麻壁紙などセルロースによる壁紙)、(3)ビニル壁紙(塩化ビニルレザー壁紙)、(4)化学繊維壁紙(アクリル壁紙などの含窒素系ポリクラール繊維、ポリ塩化ビニル繊維などの含塩素系の化学繊維による壁紙)、(5)無機質壁紙(ガラス繊維、アスベスト、蛭石(ひるいし)などの無機質を主とした壁紙)、(6)特定壁紙(紙、織物、ビニル、化繊、無機質壁紙に含まれない動植物繊維、プラスチック、無機質増量剤などを素材とした壁紙)。これらは一巻ごとに寸法(有効幅・有効長さ)、ロット番号または製造年月日、製造業者名またはその略号を包装の見えやすいところに表示することが義務づけられている。
また、壁紙の施工は、壁装材料協会で規定している壁紙標準施工法(1981)に基づいて行われることになっている。工法は大別して直(じか)張りと袋張りの2種類がある。内装制限を受ける場合は、すべて直張りとする。下地調整剤にはパテ、シーラー、下張り用紙があり、接着には、JIS(ジス)(日本工業規格)A 6922の品質規格に合格したもの、または、デンプン系糊(のり)、エチレン酢酸ビニル共重合樹脂、酢酸ビニル系グラフト重合樹脂などの壁張り専用品を用いる。下地調整には、表面の平滑化、釘(くぎ)・ねじ類の防錆(ぼうせい)処理、色合いの修正、接着面の調整に留意しなければならない。また、張り工程では、材料の銘柄、色、柄、数量、むら、傷の有無を調べたうえ、下地基材の種類や壁紙の種類にあった接着剤を選定し、試験張りを行ったのち施工するのが肝要である。壁紙の張り合わせ方には、突き付け、重ね張り、目透し張りがあるが、接着剤は、壁紙の周囲には回り糊を、内部には中糊を用い、ともにむらなく平均につけるのがこつである。壁紙の選択でもっとも重要なのは、色や柄などの意匠のみならず、建築基準法および消防法に合致した正しい防火用内装材を用いているか否かという点である。設計時点で十分に内装制限を調べておく必要がある。
[中村 仁]
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