(1)明暗法。絵画,素描,版画などで光によってつくられる物体の明部と暗部および投影を再現し,凹凸や立体感を与えるための技法とその効果を指す。古代ギリシア以来散見されるが,ルネサンス以後には必須の表現技法となる。レオナルド・ダ・ビンチによるスフマートをつくる柔らかな光,カラバッジョによる強烈な明暗の対比を生む照明法など,光の性格も考慮する必要がある。単に凹凸表現の技法としてでなく,画面表現として暗部効果が強調されるときにはテネブリスムténébrismeと呼ばれることがあり(例,J.deリベラ),また繊細な輝きの効果に対してリュミニスムluminismeなる言語が用いられる場合(例,ワトー)もある。キアロスクーロという語は1681年にバルディヌッチFilippo Baldinucci(1624-96)がグリザイユのような単色の絵画について用いたことに始まる。
→明暗法
(2)明暗版と訳され,カマイユcamaïeuとも呼ばれる。色刷木版画の一種で,単色の濃淡またはそれに近い数色の濃淡を2枚以上(4~6枚が多い)の版を用いて明暗効果をだすもの。ドイツでは1507-10年にクラーナハ,ブルクマイアによってつくられ,それと別個にイタリアではウーゴ・ダ・カルピUgo da Carpi(1450ころ-1527ころ)がベネチアで1516年に特許を申請している。ドイツ系のものは完成した図の版に明暗だけの版を加えたものが多く,これもカマイユと呼んだ。各版がそれぞれ重要な部分をなすものをキアロスクーロとして,両者を区別することもあるが,その区別は明らかでない。キアロスクーロはアンドレア・アンドレアーニ,H.ホルツィウスなども制作し,17世紀までつくられ,16世紀の版も再版された。18世紀にA.M.ザネッティ,ジャクソンJohn Baptist Jackson(1701-54ころ)らが多色の木版画をつくるが,これは色刷版画として取り扱うのがよいであろう。
執筆者:坂本 満
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
イタリア語の「明るいchiaro」と「暗いoscuro」の2語を合成した絵画用語。17世紀の美術史家バルディヌッチ(1624―96)が、明暗の効果を単色だけで表現した絵画を意味することばとして用いた。したがって本来は、油絵の制作過程における彩色前の明暗の調子だけで描かれた絵、あるいは単色で仕上げた明暗表現による淡彩素描をさす用語であった。しかし、やがて絵画の重要な構成要素である「明暗法」そのものを意味するようになった。キアロスクーロの淡彩素描を模倣複製する木版画の技法が、16世紀初頭のイタリアで創案され広く流布したが、このような木版画の技法あるいは作品をキアロスクーロ版画とよんでいる。
[長谷川三郎]
…暗部(陰影部)と明部のコントラストによって,物体の立体感と画面内の空間の雰囲気を描出する。イタリア語そのままにキアロスクーロchiaroscuro(〈明・暗〉または〈光・影〉の意)ともいう。 アルベルティは《絵画論》の中で,光(明)は白,影(暗)は黒で表され,もっともすぐれた画家は白と黒で現実感を出せると述べ,古代ギリシアのニキアスとゼウクシスをその創始者とした。…
…18世紀末にイギリス人のビウィックが木口木版挿絵に成功し,銅版画と同じような精巧な描写が可能になり,小型の木片を組み合わせることによって大きさも自由に調節して新聞,雑誌や書物などの挿絵にも用いられた。なお色刷版画は16世紀初めにドイツやアルザス地方で4枚から7枚ほどの版木(板目)によって陰影法を表現するカマイユまたはキアロスクーロと呼ばれる木版画がつくられ,ベネチアのカルピHugo da Carpi(1450か80‐1520)らの名が知られている。17世紀初めまでフランドルでも行われたこれらの技法は壁紙印刷などに伝えられていく。…
…暗部(陰影部)と明部のコントラストによって,物体の立体感と画面内の空間の雰囲気を描出する。イタリア語そのままにキアロスクーロchiaroscuro(〈明・暗〉または〈光・影〉の意)ともいう。 アルベルティは《絵画論》の中で,光(明)は白,影(暗)は黒で表され,もっともすぐれた画家は白と黒で現実感を出せると述べ,古代ギリシアのニキアスとゼウクシスをその創始者とした。…
…U.グラーフは線を白く残す拓本のような木版画もつくる。これらの地域で16世紀初頭にキアロスクーロという4ないし6枚の灰・青・褐色調の同系の色版によって立体感を表す版画が考案され,イタリアやフランドルでも17世紀初頭までつくられた。18世紀の色刷り版画の開発期にイギリスのジャクソンJohn Baptist Jackson(1701‐54ころ)がこれを改良し,多色刷り複製版画を志したが,必ずしも成功しなかった。…
※「キアロスクーロ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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