日本大百科全書(ニッポニカ) 「多選自粛条例」の意味・わかりやすい解説
多選自粛条例
たせんじしゅくじょうれい
地方自治体の首長が長期間在任しないよう、多選を自粛する努力規定を設けた条例。予算や人事など自治体の権限が集中する首長が長期間在任すると、政策や人事が硬直化するほか汚職の温床になりかねないため、多選自粛条例には自治体行政を刷新して、権力の腐敗を防ぐねらいがある。しかし多選を強制的に一律禁止すると、日本国憲法(基本的人権、職業選択の自由)や公職選挙法(被選挙権)などに抵触しかねないため、努力目標として多選を自粛するかたちをとっている。そのため、多選の期間は3期12年を超えないとする条例が多く、次期首長まで拘束しないように、現職首長の在任期間のみを拘束するかたちで制定している自治体が多い。
2003年(平成15)に東京都杉並区が初めて多選自粛条例「杉並区長の在任期間に関する条例」(2010年廃止)を制定した。ゼネコン汚職で福島県知事らが逮捕されて多選批判が高まった2006年以降、横浜市、大阪府柏原(かしわら)市、徳島県阿南(あなん)市など多くの自治体が多選自粛条例を制定した。実際に多選自粛条例を守って引退する首長もあり、一定の多選抑止効果があるとされるが、自らがつくった条例を改正して出馬する例や、条例を破って出馬し当選する例などもある。
なお首長任期を強制的に一定期間に制限する条例を多選禁止条例という。神奈川県は知事任期を恒久的に連続3期までとする多選禁止条例を2007年に制定したが、施行期日を明確に定めておらず、法的拘束力はない。また、過去には多選禁止条例の制定を目ざしたが、自治省から法的問題点を指摘されたり議会に反対されたりして、制定を断念した例もある。
[編集部]