改訂新版 世界大百科事典 「大南寔録」の意味・わかりやすい解説
大南寔録 (だいなんじつろく)
Dai Nam Thuc Luc
ベトナムのグエン(阮)朝歴代皇帝の編年体の実録。グエン朝の世祖ザロン(嘉隆)が1811年に《国朝実録》の撰修を命じて編述が始まり,憲祖の紹治4年(1844)にまずクアンナム(広南)の封建領主であった時代のグエン氏歴代各王の実録が,《前編》12巻として上梓された。次いでザロン帝以下の歴代皇帝の実録が国史館で編修され,嗣徳1年(1848)に《正編第一紀(世祖実録)》が板刻されてより,維新3年(1909)までに《第二紀(聖祖実録)》から《第六紀(同慶帝実録)》までの合計441巻が板刻された。《前編》の内容は,ベトナムがアンナン(安南)とクアンナム(広南)の南北2勢力圏に分裂していた200年の歴史をグエン氏の側から語り,《正編》はグエン朝がフランスの侵略に抵抗しつつ亡国の道を歩んでいった時代の宮廷の動向を克明に記しており,ベトナム近世史研究の最重要史料とされている。聖祖ミンマン(明命)帝の皇后の諱(いみな)を避けて〈実録〉を〈寔録〉と書くが,〈じつろく〉と読む。
執筆者:川本 邦衛
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報