大学入学者選抜制度(読み)だいがくにゅうがくしゃせんばつせいど

大学事典 「大学入学者選抜制度」の解説

大学入学者選抜制度
だいがくにゅうがくしゃせんばつせいど

各国の大学入学制度をみると,大きく二つのタイプに分けることができよう。多くのヨーロッパ諸国では,たとえばドイツではギムナジウムといった,特定後期中等教育機関の修了資格が大学入学資格を意味し,これを取得した者に大学入学の権利を付与するという考え方がとられてきた。これに対し日本では,高等学校卒業後にあらためて各大学が設ける基準にしたがった入学選抜手続きが行われる。これに合格してはじめて大学入学が許可されるという仕組みになっている。前者は資格を有するすべての者に対して大学は「開かれている」という意味で「オープン・アドミッション」,後者個々の大学ごとに入学者の選抜が行われるという意味で「セレクティブ・アドミッション」と呼ぶこともできよう。

 一般にヨーロッパでは,後期中等教育の修了試験(ドイツではアビトゥーア,フランスではバカロレア,イタリアではマトゥリタといった名称で呼ばれている)が,同時に大学入学資格試験となっており,これに合格した者は,あらためて大学入試を経ることなく大学に入学することができるというシステムが採用されてきた。ちなみにイタリアの大学入学資格「マトゥリタ(イタリア)maturità(イタリア)」は,英語の「maturity(成熟)」という言葉と関係している。すなわち「知的に成熟している」(intellectual maturity)をもっているとみなされた者に与えられる証明書が「マツリタ」であり,そういう者に対し,大学は開放されていなければならないというのが,これまでのヨーロッパの大学に見られる大きな特色であった。

 しかし,かつては同年齢層のわずか数%にすぎなかった大学進学率が,1990年代に入ると多くのヨーロッパ諸国において大体2割から4割に達するようになった。それにともない「資格をもつ者に対して開かれた」オープン・アドミッションの制度にも,「入学制限」(numerus clausus)の導入というセレクティブ・アドミッションの要素を取り入れざるを得ない状況となっている。現在のヨーロッパの大学入学システムは,次の二つの面からとらえられる。

(1)後期中等教育の修了試験によって生徒の学習到達度を検査し,一定水準に達した者に対し大学入学資格を付与する。基本的にはこの段階で大学に入学できる

(2)大学の収容限度を超える場合に限定して,大学入学資格を得た者のなかから,何らかの基準を設け,入学者を選抜する

 ヨーロッパ各国について現状をまとめてみると,大きく三つのタイプに分類できよう。①どの学部学科でも選抜が実施されている国,②一部の学部・学科でのみ選抜が実施されている国,③ほとんどの専攻分野で選抜が実施されていない国。

 ①のタイプでは,たとえばイギリスでは,受験者は「大学・カレッジ入学サービス(イギリス)」(UCAS(イギリス))と呼ばれる仲介機関にそれぞれ希望する大学名を記入した志願票を提出する。合否の決定は大学ごとに,GCE-Aレベル試験(イギリス)(中等普通教育証書上級試験(イギリス))成績を主として,そのほか面接,自己申告書,調査書などにもとづき行われる。ギリシアでは,上級中等学校(リケイア)修了証書を取得している者を対象に,政府が実施する全国共通の入学試験が行われている。スペインポルトガルでは,各大学が入学試験(大学進学能力試験)を実施している。スウェーデンの大学でも,各大学による選抜のプロセスを経て入学者が決定されるが,一定の職業経験を有する者に大学入学資格を与える制度もある。

 ②はフランス,ドイツ,イタリア,オーストリアなどに典型的に見られるタイプである。これらの国々では志願者が殺到する学科・学部で「入学制限」が行われているが,基本的にはバカロレア,アビトゥーアなどの資格取得者は,希望する大学に「登録する」ことにより入学することができる。医学部など「入学制限」が行われる場合にのみ,選抜手続きが実施される。③の「入学制限」がとくに設けられていないのは,たとえばベルギーなどである。ベルギーでは,近年医学部で「入学制限」が行われるようになったが,そのほかの専攻分野では基本的にオープン・アクセスとなっている。

 アメリカ合衆国の大学の場合,大きく三つのタイプがある。①高等学校卒業者であれば,原則としてすべて入学できる大学,②SATやACTなどの適性検査と高等学校の成績にもとづき,一定の基準をクリアしている者全員の入学を認める大学,③適性検査,高等学校の成績に加えて,小論文,面接など多様な基準にもとづき競争型の選抜を行う大学である。有名私立大学は③のタイプに属する。

 ヨーロッパに見られる動向として,後期中等教育はこれまで大学進学を前提とした一般教育を施すことにその使命が置かれてきたが,これに加えて職業・技術教育を行うことも要請され,両者をどのように結合させるかが課題となっている。職業教育で得られる資格を通しても大学入学へ至るコースが各国で設けられるようになっている。たとえばイギリスでは,GNVQ(イギリス)(一般全国職業資格(イギリス))という名称の職業教育資格がGCE-Aレベル試験と同等の水準にあるとみなされている。フランスでも職業資格も兼ねた職業バカロレア(フランス)が設けられるなど,各国とも大学入学へと導くさまざまなタイプの資格が導入されている。
著者: 木戸裕

参考文献: European Commission, Key data on education in Europe 2012.

参考文献: 木戸裕『ドイツ統一・EU統合とグローバリズム―教育の視点からみたその軌跡と課題』東信堂,2012.

出典 平凡社「大学事典」大学事典について 情報

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