学術的に一定のまとまりをもつ専攻分野で構成される教育研究上の組織。大学の基本組織である学部を母体とし,その構成組織として設置される,学部の収容定員を決定する単位組織となる。日本の大学において学科は教育研究上の基礎組織として重要な存在であるが,教育研究の多様化や総合化の流れは,学科制度にも多分に影響を与えている。
[学科設置の法的根拠]
学科の設置を法的に規定するのは大学設置基準である。その4条で「学部には,専攻により学科を設ける」(1項),「学科は,それぞれの専攻分野を教育研究するに必要な組織を備えたものとする」(2項)と定めている。さらに18条において「収容定員は,学科又は課程を単位とし,学部ごとに学則で定める」とし,学科もしくは課程が学部の収容定員設定上の細組織であることを規定している。
大学学部の学科等の新設や廃止については,学校教育法,学校教育法施行令において,当該大学が授与する学位の種類および分野の変更を伴わないものに限り,監督省庁への届け出で済むことを規定している。これは学部・学科の設置規制を緩和することによって,大学の主体的判断による柔軟な学科編成を可能とし,大学の活性化を図ることを目的とするものである。2003年(平成15)の法改正で施行されたこの措置により,学科構成や学科名称の多様化が一気に進んだ。ただし,大学や学部の目的に照らした学科の構成や組織体制の妥当性は,大学機関別認証評価において検証される。
[課程]
大学設置基準5条では「学部の教育上の目的を達成するため有益かつ適切であると認められる場合には,学科に代えて学生の履修上の区分に応じて組織される課程を設けることができる」と規定している。近年,日本の大学における学士課程では,従来の学術的枠組みの垣根を越えた学際的・総合的な教育プログラムが提供されている。こうした領域での教育研究に対応する柔軟な組織として,学科に代わり課程を設置する大学も多い(例:日本文化課程,地域研究課程,共生環境課程など)。また,学科制で求められる授業科目を担当する専任教員の確保が困難な場合,より柔軟な教員配置が可能となることを理由に課程制を導入する大学もある。
[短期大学における学科]
学校教育法108条に規定される修業年限2年もしくは3年の大学,すなわち短期大学は同条において学部を置かず(4項),学科を置くこと(5項)が規定されている。短期大学設置基準3条では「学科は,教育研究上の必要に応じ組織されるものであつて,教員組織その他が学科として適当な規模内容をもつと認められるものとする」(1項),「学科には,教育上特に必要があるときは,専攻課程を置くことができる」(2項)と規定され,学科が教育上の基礎組織であることを定めている。さらに4条において,短期大学の収容定員設定は学科ごとに学則で定め,学科に専攻課程を置くときは専攻課程を単位として学科ごとに定めると規定している。従来,短期大学における学科は,大学の学科と同様に既存の学問領域を基礎としてきたが,今日では伝統的学問領域にとらわれない融合領域に立脚する学科(例:現代コミュニケーション学科,生活デザイン学科)や,キャリア形成教育プログラムに応じた学科(例:情報ビジネス学科,キャリア教養学科)が主流である。
[学科における教員配置―学科目制]
大学の学科組織では,教育研究上で必要な科目を定め,これに教員を配置する。こうした仕組みを学科目制(日本)という。主要学科目は,専任の教授または准教授が担当することを原則とする。学科目制は,新制大学発足時に大学における授業科目開設と教員配置の仕組みとして制度化された。これに対し,戦前期の帝国大学や医科大学などでは講座制(日本)が採用された。講座は学問の専攻分野ごとに設けられ,一つの講座を原則として一人の教授が指導し,その下に助教授,講師,助手という階層関係のある教員を配置した。講座制は教育研究の責任体制を確立し,当該分野における教育研究の深化を目的としており,新制大学発足後も前身が帝国大学だった国立大学などではこの体制がそのまま継承された。一方,戦後に発足した新制の国立大学や私立大学では,教員配置の面で講座制の採用は難しく,それに代わるものとして学科目制を導入した。なお国立大学では1999年度末まで,講座制と学科目制では教育研究費や管理運営費の予算措置も異なっていた。
第2次世界大戦後,大学を新設するのに必要な最低の基準を定めた文部省令である大学設置基準では,教員組織について,大学は講座制もしくは学科目制のいずれかを採用することを規定した。しかし,講座制における教員の階層序列に伴う弊害や,学科目制においては教育科目を教員の研究分野に無理やり一致させてしまうことなど,それぞれの制度や運用上の課題が指摘されるようになった。このため,2001年の大学設置基準の改正によって講座制や学科目制以外の教員組織編成が可能となり,2007年には大学設置基準から教員組織としての講座制,学科目制の記載が削除された。
海外大学の教育研究組織あるいは人事や自治の単位は,それぞれの歴史的・社会的背景によって多様である。ヨーロッパ大陸のユニバーシティ型大学では,学問領域あるいは専門職への準備領域に対応させて組織が区分され,それぞれ組織の中でさらに垂直的な構成配置が行われる。まず上位にはファカルティ(faculty),スクール(school),カレッジ(college)といった英語があてられる広範な学問もしくは職業領域を包括する部門あるいは組織が設置され,その傘下に,より領域が特化された講座,研究所,学科などのグループが置かれる。イタリアやフランスなどでは,学科が設置されていない大学も多い。一方,アメリカ合衆国では,日本の学部に最も近いのはスクールやカレッジである。その下部組織である学科はデパートメント(department)と訳されることが多いが,欧米のスクールやカレッジ,デパートメントを日本の学部・学科制度にそのまま該当させて正確に訳し分け,理解するのは困難である。
著者: 大川一毅
参考文献: 寺﨑昌男『大学教育の可能性―教養教育・評価・実践』東信堂,2002.
参考文献: 谷聖美『アメリカの大学―ガヴァナンスから教育現場まで』ミネルヴァ書房,2006.
参考文献: バートン・R. クラーク著,有本章訳『高等教育システム―大学組織の比較社会学』東信堂,1994.
出典 平凡社「大学事典」大学事典について 情報
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
…小・中・高の諸学校での授業を通して子どもが学習すべき知識や技術などを,学問や文化の体系に沿って,人類の遺産の中から必要なものを選びとり,教育的に組織したものをいい,学科ともよばれる。また教科の中で,さらに区分して系統立てられた領域を科目とよぶ。…
※「学科」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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