改訂新版 世界大百科事典 「大田田根子」の意味・わかりやすい解説
大田田根子 (おおたたねこ)
記紀の伝承で三輪氏や賀茂氏の始祖とされる人物。《日本書紀》は大物主神(おおものぬしのかみ)の子と記すが《古事記》では4世の子となっている。オオは〈大〉,ネコは尊称,タタは〈田〉を意味するか。《古事記》によると,崇神天皇の代に災害や疫病が続いたときオオモノヌシが天皇の夢枕に示現してオオタタネコに我を祭らせよと語った。そこで託宣のとおりにしたところ災いは去ったという。このオオタタネコは夫なくしてはらんだ玉依姫(たまよりひめ)の子であるが,その異常な誕生のいきさつを語った説話が三輪山伝説である。オオモノヌシを祭っていたのはタマヨリヒメに代表される神の妻たる巫女であり,オオタタネコなる人物はその巫女の兄弟であったと思われるが,系譜意識の発達に伴い,男系の祖としてオオモノヌシの子オオタタネコが作り上げられ,タマヨリヒメはその母へと昇華していった。《古事記》でいう4世の子とは,その系譜が肥大化したものである。
執筆者:武藤 武美
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報