日本大百科全書(ニッポニカ) 「妾馬」の意味・わかりやすい解説
妾馬
めかうま
落語。大名物のなかの大作で、人情噺(ばなし)としても格調が高い。裏屋敷に住む孝行娘のおつるが、大名の赤井御門守(ごもんのかみ)に見そめられて妾(めかけ)となり、やがて男子出生、「おつるの方」と出世した。おつるの兄の八五郎が屋敷に招かれて御馳走(ごちそう)になるが、ことばや作法の失敗を繰り返し、それがかえっておもしろいと殿様に気に入られる。おつると対面した八五郎は、おふくろのことばを伝えて涙を流す。八五郎は家臣に取り立てられ、石垣杢蔵源蟹成(もくぞうみなもとのかになり)となった。ある日、馬に乗って使者の役目で出かけたが、馬術を知らぬので馬が何かに驚いて駆け出す。たてがみにしがみついていると、向こうから屋敷の者がきて「石垣氏、いずれへ」「どこへ行くか、馬にきいてくれ」。現在は、八五郎述懐から士分に取り立てられるところで終わることが多い。落ちまでやらぬと「妾馬」の意味が通じないので、「八五郎出世」という題で口演することもある。6代目三遊亭円生(えんしょう)の十八番であった。
[関山和夫]