安倍郡(読み)あべぐん

日本歴史地名大系 「安倍郡」の解説

安倍郡
あべぐん

駿河国の西部に位置する郡。郡名は「新撰姓氏録」右京皇別下の廬原公の項にみえる「阿倍廬原国」の阿倍国に由来するか。

〔古代〕

この時代の郡域は南部を除く現静岡市域で、東の廬原いおはら郡との境は現在の静岡市と清水市の境界線が丘陵尾根にあたり、地形上からも妥当か。ただしその境界線より西の静岡市瀬名せなは廬原郡西奈せな郷に比定されるので、一部では長尾ながお川が境界となっていたか。南の有度うど郡との境界は古代東海道推定ルート上とする説が妥当か(→有度郡・有渡郡。「和名抄」には川辺かわのべ埴生はふ広伴ひろとも葛間かつらま美和みわ川津かわづ八祐やけし横太よこた八郷がみえる。ほかに天平七年(七三五)一〇月の平城京跡出土木簡(「平城宮木簡概報」二二―二二頁)に「(表)駿河国安倍郡中男作物堅魚煎一升」「(裏)天平七年十月 泉屋郷栗原里」とみえ、これが郡名の初見とされる。天平一〇年度の駿河国正税帳(正倉院文書)に、「安倍郡、天平九年定穀伍万玖阡陸伯肆拾伍斛参斗弐升、振入五千四百廿二斛三斗、斛別入一斗、定伍万肆阡弐伯弐拾参斛弐升」とある。「和名抄」東急本国郡部に「国府、在安部郡、行程上十八日、下九日」と記されるように、駿河国府が所在した。比定地については、現静岡市長谷はせ通付近とする説や、駿府城跡を含む地域とする説などがある。安倍郡家も駿府城付近とする説もあるが、現静岡市川合かわい宮下みやした遺跡などが安倍郡衙跡推定地として有力視されている。天平一〇年度の前掲正税帳に「防人部領安倍団少毅従八位上有度部黒背」とみえ、当郡には軍団の安倍団が置かれていた。

「延喜式」神名帳に安倍郡七座として足坏あしつき神社・神部かんべ神社・建穂たきよう神社・中津なかつ神社・小梳おくし神社・白沢しらさわ神社・大歳御祖おおとしみおや神社が載る。郡域にかかわりの深い氏族としては、天平一〇年度の前掲正税帳に安倍郡散事としてみえる常臣子赤麻呂・横田臣大宅・伊奈利臣千麻呂・半布臣子石足・丈部牛麻呂・日下部若槌などがいる。このうち丈部は阿倍氏系の氏族で、有度郡でも丈部の分布は確認されるので、当郡と阿倍氏との関係は深かったといえよう。正税帳という史料の性格や、郡散事クラスの氏族であるためもあるが、臣姓の氏族が駿河郡・富士郡など駿河東部と比較して多いことが指摘できる。横田臣・半布臣はそれぞれ郡内の横太郷・埴生郷を本拠としたと思われる氏族で、天平一〇年度の前掲正税帳に有度郡散事としてみえる川辺臣足人も当郡川辺郷を本拠としたとみられる。これら郷名氏族は川辺郷・横太郷など国府周辺に居住し、国庁の職務も負担したと考えられる。

出典 平凡社「日本歴史地名大系」日本歴史地名大系について 情報

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