改訂新版 世界大百科事典 「宿屋の富」の意味・わかりやすい解説
宿屋の富 (やどやのとみ)
落語。上方落語《高津(こうづ)の富》を3代柳家小さんが東京に移入した。《千両富》とも。金策に江戸へ出て来た男が,うまくいかずに馬喰町(ばくろちよう)の宿屋へ泊まり,自宅に奉公人が500人もいて,諸方の大名に2万両,3万両と貸してある,などとホラを吹くうちに虎の子の1分で富札を買わされた。千両富に当たれば,亭主に半分やると約束したが,本当に千両に当たって,おどろいて帰り,寒気がすると言って寝てしまった。亭主も客が千両に当たったと知って飛んで帰り,下駄をはいたままで客の部屋に行き,祝いの酒盛りをしようと言った。〈いやだよ,千両ばかり当たって酒飲むなんて……〉〈いいじゃありませんか。せっかく支度ができてるんですから,起きていっしょに来てくださいな〉とふとんをまくると,客も草履をはいたまま寝ていた。
執筆者:興津 要
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報